本研究課題の目的は、日本に定住する外国人児童の文化的アイデンティティ形成の過程をフィールド調査によって明らかにすることである。インタビューを用いた調査を中心に実施したが、最終年度もデータ収集が中心となり、かなり計画の進行が遅れた。収集したデータは、定住ベトナム人の青年12人(総時間数 約10時間)と、その保護者6組(総時間数 約6時間)となった。保護者は日本語による日常会話が不十分な場合があり、ベトナム語で調査を行い、それをテープ起こしした後に、日本語に翻訳した。 本研究では、定住外国人児童の文化的アイデンティティ形成の過程に影響する要因として、親の発達期待に注目している。最終年度に収集したデータは、その視点からの分析に十分に応えるものである。 今後は、その視点からそれらのデータの分析を行う。その際の観点は、Phinneyが提案している民族的アイデンティティ形成の3段階モデルを適用する。すでに行った分析では、Phinneyの3段階モデルが概ね適用可能であることが示された(木村・西田・與久田、2015)。日本語能力が十分なベトナム人青年は、ベトナム人由来の特性である日本語だけでなくベトナム語も話すことができることが、周囲の日本人である友人に認められたこと、継承語教室でベトナム語に関する文化的活動への参加経験で他者からの評価が高かったことから、自らのベトナム人由来の要素を肯定的に捉える傾向が認められた。これを、Berryの異文化適応の文化変容モデルに当てはめると、統合型のアイデンティティ形成が行われているものと予測される。これらの視点から分析を行い、欧米の研究者による文化心理学的理論が日本における定住外国人に適用可能かを検証する。
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