映像機器による監視がもたらす心理効果に関連して,下記の2つの研究を実施した。 第1に,映像機器による監視を用いることで,視覚探索における出現頻度の低いターゲットの見落としを抑制することが可能かどうか検討した。空港のセキュリティチェックを行うスタッフや,医療現場においてx線画像から異常な兆候をチェックする放射線科医は,ときおり重要なターゲット (危険物・腫瘍等) を見落としてしまうことがある。これらの視覚探索に共通するのは,ターゲット刺激の出現頻度が非常に低いことである。我々は出現頻度の低いターゲット刺激を非常に見落としやすいことが,近年の実験室実験によって明らかにされている。この現象は低出現頻度効果と呼ばれ,基礎的にも応用的にも重要な問題である。低出現頻度効果が生起する要因の1つに,判断基準の極端な保守化 (環境中にターゲットがないと判断する傾向が高くなること) がある。映像機器による監視によって,この極端な保守化を抑制できること,それに伴い出現頻度の低いターゲットの見落としを防止できることを示した。この研究は国際学会でポスター発表し,国際誌への掲載が決定した。 第2に,映像機器による監視が空間的注意の範囲に及ぼす効果を検討した。空間的注意とは空間に基づく注意の選択機能であり,その範囲は演劇舞台上のスポットライトのように,空間的な範囲に制限があり,そのサイズは様々な要因でズームレンズのように変化するといわれる。社会心理学の古典的な研究では,他者の監視によって,空間的注意の範囲が焦点化することが示唆されてきた。この知見に基づき,映像機器による監視によっても同様に,空間的注意の焦点化が生じるかどうかストループ課題やフランカー課題を用いて検討した。その結果,映像機器で監視されることでも空間的注意は焦点化する可能性が示された。この研究は,現在,学術雑誌への投稿準備中である。
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