感情リスクの高い判断事態で、冷静さを保ち、理性的判断を行うためには、感情系の賦活の制御ができなければならない。だが、大半の人間にとってそれは相当に困難なことである。こうした事態で最小限必要なことは、意思決定直前の自己の感情に気づき、冷静さを向上させることである。本研究では、感情リスクのある判断時に冷静さを向上させる方法を探るため、感情に関する自己認識、いわば、感情の気づきを高め、判断時の冷静さを向上させるという方法を実験的に探索した。ここでは、身体動作により感情の気づきを高めること(身体化感情再評価)を冷静さの向上法として提案し、その有効性を判断過程と前頭葉活性化状況から検討することを目的とした。 この目的の達成のため、小型脳活動測定装置による脳内反応を測定する判断の実験研究を実施した。具体的には、仮想事態で恐怖や不安の感情喚起操作を行い、その感情の再評価の際に身体動作を伴うこと(身体的感情再評価)の、感情リスクの高い状況での判断における冷静さの向上への有効性について、感情再評価時における身体動作がある条件と無い条件の下での判断傾向と前頭葉部脳活動の活性化状態を検討する実験室実験を行った。被験者は不快感情を喚起するような仮想のストーリーおよび動画での事態における判断を求められた。その際、被験者に小型脳活動測定装置を装着させ、前頭前野の活動を同時に測定した。結果は、感情再評価の際身体動作を伴う条件のほうが恐怖、不安の感情の再評価における主観的強度が低く、その後の当該事態での自己の行動選択の判断において冷静な判断をする傾向がみられ、喚起した不快感情の再評価の際の身体動作の随伴(身体的感情再評価)が行動選択における冷静な判断を促す可能性が示唆された。また、前額部領域の前頭前野の活性化と感情の主観的強度の評価の関係が一部にみられた。
|