平成27年度に実施した質問紙研究によって,自分のことをスピーチや発表場面に強いと評価している個人と,弱いと評価をしている個人が発表前に考えていることや発表中に考えていることが明らかになった。この研究の結果をもとに,28年度にはスピーチ場面を設定し,対象者に発表場面に強い個人と弱い個人が考えていることの何れかを実践するように求める実験的研究を実施した。 交付申請段階では,心理教育群やリラクセーションの実施群について2か月間を要する旨を記述していた。しかしながら,Brooks(2014)等において実験場面における1度の教示によって心理状態やパフォーマンスに差がみられることが報告されている。したがって,本研究においても先行研究に倣い,実験的場面における教示を用いることによる変化について検討することとした。 具体的には,スピーチを準備する段階で以下の2種類の何れかの教示を実施した。①実験者に自分の話す内容を伝えることを優先し,自分が話す様子を具体的に想像するように求めるような教示と,②言葉に詰まったり言い間違えがないようにすることを優先するように求める一方で,3分間なので早く終わる課題であるという教示である。 以上の2群について,スピーチ前後のポジティブ感情,ネガティブ感情,状態不安の変化とスピーチに対する自己評価について比較検討した。その結果,ポジティブ・ネガティブ感情,状態不安の変化,スピーチの自己評価のいずれの変数においても2群間で有意な差は観測されなかった。 Brooks(2014)は自らの感情に対する意味づけを変える方略であったのに対して,本研究は感情に注意を向けていなかったという差異があり,この点について今後は詳細に検討する必要がある。
|