研究実績の概要 |
本研究の目的は,健康状態の比較的保たれている高齢者を対象とし,「加齢性難聴への適応プロセス」を明らかにすることである.加齢性難聴は徐々に進行するため気づきにくく,たとえ気づいたとしても,高齢者たちの多くは受診をしない傾向がある.昨年度までに,難聴高齢者を対象にインタビュー調査を実施し,聞こえないことの困難感や難聴への対処方法について聞き取りを行った. 最終年度は,まず,インタビューの逐語録から,高齢者たちが難聴に気づいてから受診に至るまでのプロセスを質的研究によって検討した.高齢者たちは,耳鳴りといった不快感や仕事上の困難等で生活に支障をきたす場合には耳鼻科を受診するが,それ以外では自ら受診することは少ないことが明らかになった.次に,高齢者たちが難聴に対して行っている対処法を,インタビューデータより抽出した.それを用いて難聴コーピング・ストラテジー尺度を作成した.また,質問紙調査において対象者の聴力レベルを大まかに把握できるよう,簡易聴力検査を開発し,そのマニュアルを作成した.これにより,オージオメータで純音聴力を測定しなくても,およその難聴レベルがわかるようになったことは大変意義がある. 最後に,地域在住高齢者と若年難聴者を対象に質問紙調査を実施した.質問項目は,基本的属性,難聴ストレス尺度,難聴コーピング・ストラテジー尺度,未来展望尺度,健康指標としてSF-8,及び開発した簡易聴力検査からなっていた.そして,難聴ストレス,難聴コーピング・ストラテジー及び精神的健康の関連について,生涯発達的観点から検討した.
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