本研究は,社会的に孤立状態にある人間の環境世界に対する認知を,空間認知等の視点から検討することで,孤立無援感についての実証的な理解を進め,学校におけるいじめ被害者などの支援に役立つ知見を得る目的で行われた。 本年度は最終年度であるため,これまでの研究成果と課題を整理しながら,前年度から継続して行ってきた学校での孤立経験者に対するインタビュー調査を進めるとともに,孤立者から見た環境世界の抽象性に関する実験的検討を行った。 学校において孤立を経験したことがある者に対する,インタビュー法を用いた質的研究では,いじめを契機に孤立を経験した大学生の事例が分析された。それによると,孤立状態となって以降の時間の推移によって,周囲の他者や環境への認知は変化し,孤立状態が固定する後期に至ると距離が遠く感じられるようになり,当人への影響力も薄らいでくる可能性が指摘された。そしてこの変化は,孤立した生徒を支援しようとする教員への距離感において顕著である場合があり,いじめへの介入に際して孤立者が必ずしも支援者を身近な他者とは感じていない可能性が示唆された。 上記をふまえて,孤立が他者との心理的距離だけでなく物理的距離をも遠いものに感じさせる可能性について,大学生を対象に実験を行った。孤独感や集団における被受容感の高さによって被験者を分割し,紙面上に提示されたイラストの種類によって刺激に含まれる線分の長さの推測が異なるかを比較したところ,女性の被験者において異なる傾向が見出された。孤立の影響に性差が見られたことについては今後さらに検討していく必要がある。
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