本研究は、瞳孔反応が視覚課題遂行時の注意の変化を反映する指標となることを検証し、さらには、リアルタイムでの注意計測の可能性を検討することを目的としていた。検討の結果、1試行内の注意の変動をリアルタイムでモニタリングするためには、注意による瞳孔反応の変調効果は小さすぎることが明らかとなった。このため、今年度は、同じ刺激条件を30試行程度の繰り返した結果をオフラインで平均した瞳孔反応を用い、注意による変調効果を詳細に検討した。注意課題として損失-利得課題を用い、先行手がかりにより空間的注意を操作し、標的刺激(視角6度の輝度刺激)に対する検出反応時間を計測するのと同時に瞳孔反応も計測し、両者を比較した。結果は以下の通りである。1) 統制条件と比較して、先行手がかりと同側、あるいは、反対側に標的刺激を提示する条件では、それぞれ反応時間の減少と増加が認められたが、瞳孔反応においても標的刺激に対する応答の増幅と減少が確認された。2) 反応の変調は、輝度増分刺激に対する縮瞳と、輝度減分刺激に対する散瞳のそれぞれで認められた。3) 瞳孔反応の変調は、注意による反応時間の変調が大きいSOA条件において顕著であった。4) 損失-利得課題のようにできるだけ早く正確に反応するよう求められると、課題誘発性の瞳孔反応(試行開始とともに生じ、キー押し反応を行うまで徐々に大きくなっていく散瞳反応)が生じ、これにより、空間的注意による瞳孔反応の変調効果が認められにくくなることがある。5) 課題誘発性瞳孔反応の影響をおさえるため、標的刺激の検出をせずに単に刺激を観察するよう求めたところ、注意による瞳孔反応の変調がより明確に現れることが確認された。以上の結果は、瞳孔反応が注意機能を計測する生理学的指標となりうること、そして注意による瞳孔反応の変調効果は知覚反応に対する効果とよく対応することを示唆している。
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