本研究ではヒトの脳活動を非侵襲的に計測することにより注意制御中の脳領域間結合の変化を解明することを目的とした。特に、異なる視覚的特徴に注意を向けたときの脳領域間結合状態の変化および異なる感覚系に注意を向けた時の脳領域間結合の変化について、時間動態の検証に優れる脳磁場計測を用いて検証することとした。本年度は、異なる感覚系に注意を向けた際の脳領域間結合の変化に焦点を当てて研究を行った。多感覚的注意課題遂行中の被験者から全頭型306ch脳磁場計測装置を用いて計測した脳磁場データに対して脳領域間結合の指標を計算し検証した。被験者の眼前に設置したスクリーン上に視覚刺激を提示し、続いて触覚刺激または聴覚刺激を被験者の右もしくは左空間から提示した。被験者は視覚刺激に示された側に注意を向け、刺激弁別課題を行った。時間周波数解析を行ったところ、注意制御期間中にアルファー帯域からベータ帯域にかけて脳磁場信号のパワー低下(脱同期化)が認められた。またセンサーの一部ではパワー増大(同期化)が認められた。信号源解析ではこれらの脱同期化には頭頂葉の関与が考えられた。さらに脳領域間結合解析を行ったところ、前頭前野と側頭葉の結合強度が増強されることがわかった。以上より注意制御中に脳領域間の結合強度が変化することが示唆された。これらの結果は、古くから提唱されている前頭前野から感覚野等に注意制御のためのトップダウン信号が送られるとの注意制御仮説を支持する。
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