研究課題/領域番号 |
25590230
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
喜多 明人 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70147932)
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研究分担者 |
安部 芳絵 早稲田大学, 文学学術院, 招聘研究員 (90386574)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | オルタナティブ教育 / 学習権 / 子ども参加 / 子どもの権利 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本でもその実践に広がりを見せているオルタナティブ教育や学び場づくりにおいて、子どもの学習権の保障や教育の公共性の観点から、その制度化の意義と課題を明らかにすることである。子どもを権利行使の主体として捉える国連・子どもの権利条約に基づいた子ども観を基盤に、多様な学びの形態から、子どもが自身の学びを選択し、自己決定し、かつ、興味・関心や疑問などを基に主体的な学びを創造する重要性を検討する。また、それを実践的に支える教員・スタッフ、保護者、地域住民をふくめ、子どもの学びの権利を支えるその制度などの重要性とそれらの関係のあり方などについて、オルタナティブ教育の実践を検証しながら示唆を得る。 初年度と2年目を通し、オルタナティブ教育における国際比較調査や、各教育における文献資料、子どもの権利に関する文献研究などを先行研究とし、実際に日本におけるオルタナティブ教育の実践について、フィールドワークを実施し、インタビュー調査などをふまえた事例研究を進め、その整理を行った。 特に2年目は、初年度のオルタナティブ教育の概念や実践の整理・検討をふまえ、子どもの学習権について、実践現場の子どもの実体や取り組みと子どもの権利に関する先行研究の議論をふまえ、子ども自ら学びを創造する権利としての能動的な概念として発展させ、その意義の検討を行うことができた。また、学習権保障の対象として、いわゆる「学校」だけでなく、生活をともに営むコミュニティや居場所づくりの実践とそこでの学びも含める意義を明らかにした。 さらには、韓国・ソウル市(1年目)と光州市(2年目)をオルタナティブ教育の制度化の先進事例として取り上げ、実地調査をふまえて行政やNPO、学校現場などの多角的な視点から、制度化における意義とその課題についての実践的な知見を収集し、日本の制度化へ向けた動きやその議論の検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の達成度に関して、「おおむね順調」と判断する。理由として主に3点を挙げる。 1点目として、本研究の中心的な概念である<子どもの学習権>に関して、これまでの先行研究や前年度の研究・調査に加え、オルタナティブ教育の実践現場の実践者・当事者との交流や、オルタナティブ教育の制度化(多様な学びを保障する法律を実現するための)市民ネットワークなどとの連携・議論を通して、子どもの学習権を、子ども自ら学びをデザインし創り上げるといった、子どもによる〈子どもの学びの権利〉としての能動的な概念として発展させ、検討することができたことである。 2点目として、本研究の主な対象であるオルタナティブ教育やオルタナティブな学び場づくりを行っている多様な実践に関して、前年のフィールドワークに加え、さらに事例を集めるとともに、<子どもの学ぶ権利>の観点からそれぞれの実践の検討を進められたことである。この点に関しては、文献研究と実践研究をふまえ、その実践的知見の意義の分析・検討を行った。ここでは、教育的な実践現場だけでなく、教育を第一義の目的としないような居場所づくりの実践においても、学習権保障の対象として考慮し、尊重していくべきとする主張とその論理的根拠についての考察を深めることができた。 3点目には、オルタナティブ教育の制度化において先進的事例として取り上げた韓国のソウル、京畿道、光州市から知見を学び、日本のオルタナティブ教育を中心とした多様な学びの制度化について考察し、社会的な意義、各々の現場での課題や社会的な課題などについて検討することができたことである。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2015年度には、本研究の目的である「オルタナティブ教育やオルタナティブな学校づくりにおいて」、その「制度化の意義とその課題を明らかにする」ために、2年間の研究成果を批判的に再検討しつつ、その成果を、関連テーマの各研究論文、さらには全体を報告書としてまとめていくことを目指す。 そのために、主に次の2点について具体的な明確化を行うこととする。1点目は、フィールドワークや文献・資料調査によって集められたオルタナティブ教育の実践事例について、子どもの権利、特に子どもの学ぶ権利の視点から実践事例を再検討しそれをまとめていく。2点目は、学習権保障の議論とその保障のための制度化について、先行研究による議論や韓国の先進事例からの知見をもとに再検討し、公共性という視点もふまえながら国内のオルタナティブ教育・多様な学びの制度化とその課題について整理をし、まとめていく。 さらには、関連学会での研究発表や論文作成を通し、広く学際的に学術的知見をうけ、本研究を発展させる。たとえば、子どもの学習権や学ぶ権利、子どもの権利の視点から考察したオルタナティブ教育の意義や制度の在り方、事例研究を通したオルタナティブ教育の制度化の意義やその課題など、それぞれの具体的なトピックを研究・論文発表のテーマとして扱っていく。 3年間の研究成果として報告書にまとめることに加え、その成果物を日本、さらには韓国の、特に教育実践分野へ還元し、社会的貢献の方途を探ることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
フィールド調査を1件、先方の都合で次年度へ持ち越したことと、関連テーマの参考文献としての洋書の購入を次年度に見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の前期に、見送ったフィールドワークを実施しその事例研究を他の事例研究へ加えながら、比較、検討しまとめていくこととする。 また、洋書の参考文献は、それまでに行った先行研究と収集した事例研究を、オルタナティブ教育研究における海外の先進的な知見からさらに考察に厚みを持たすものとして取り入れていくこととする。
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