研究課題/領域番号 |
25590247
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 郡山女子大学 |
研究代表者 |
山本 裕詞 郡山女子大学, 家政学部, 教授 (40550702)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 公教育 / 教育の機会均等 / 教育委員会 / 地方分権 / 学習権 / 教育財政 / 教育政策 / 教育制度 |
研究概要 |
本研究の目的は、地方自治体による教育施策の適切性を判定するモデルを開発することにあるが、それは教育施策の不適切性が、どのような形や理由で現象化しているのかを解明することと表裏の関係にある。 研究初年度である平成25年度においては、配置が自治体裁量に任されている栄養教諭の配置実態を分析対象として、全国都道府県を対象に比較調査を実施した。その結果、特に栄養教諭の配置率が低い自治体ワースト5に、地方財政力が比較的豊かな自治体が集中し、逆に配置率が高い自治体ベスト5に、地方財政力が乏しい自治体が多く位置するという、当初予想とは逆の傾向が出現した。 原因としては、国庫負担額が教員給与の三分の一であり、残り三分の二が自治体負担となることから、財政の自立度が高い自治体ほど一般交付税化される額が小さくなって自己負担額が多くなるのに対して、財政自立度に乏しい自治体ほど残り三分の二の補助が満額に近くになり、結果として自己負担額が小さくなることが考えられる。 また、この財政自立度の低い自治体においては、比較的一次産業とその関連産業の地域経済上の地位が高く、その結果、食育への関心(政治的関心も含む)も高く、食育関連施策も整備される傾向があり、したがって栄養教諭は地域連携を展開しやすい環境にあったが、一方で、財政自立度の高い自治体では比較的一次産業とその関連産業の地域経済上の地位が低く、その結果、食育への関心も相対的に低くならざるを得ず、総合行政としての食育関連行政には具体性や実効性に乏しい傾向が現れ、したがって栄養教諭が地域連携を進めるには厳しい状況が見られた。 以上から、本来教育の機会均等とその水準の維持向上を目的とする義務教育費国庫負担法が、その国庫負担率の減少によって、新たに保障しようとする教育資源の配分を、かえって妨げ、教育機会の不平等を固定化するものに変質している可能性が見えてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、地方自治体による教育施策の適切性判定のモデルを開発することを目的としている。当初計画においては、栄養教諭に続き、副校長、主幹教諭、指導教諭等、複数の「新しい職」の分析を行い、それらに共通する適切性判定の因子を抽出し、フィールドワークでの検証を行う計画であった。 しかし、地方自治体の栄養教諭の配置過程を分析中、義務教育費国庫負担率の減少が、同法の目的と矛盾する結果を生じさせている可能性や、栄養教諭の配置行政が、当該自治体における食育行政全体との関係で捉えるべき性質であることが見えてきたので、研究目的を効率的に達成すべく、こちらに研究の優先度を移行した。結果として、旅費は必要なくなり、文献資料に関する費用が拡大した。 以上のように、当初計画通りではないが、平成25年度内に学会での発表と学術論文の発表を実施しており、当初の研究目的達成に向けて遅れはなく、順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究によって、義務教育費国庫負担制度の変質可能性や、地方自治体独自の教育施策の適切性が、当該地方自治体の総合行政との関係の中で評価される必要があることが見えてきた。 そこで、平成26年度は、基準財政需要額における教育関係職への配分状況や、それが地方自治体において教育関係費として実現する率や内実を明らかにしたい。また、地方自治体裁量によって配置されている職(スクール・ソーシャルワーカー等)の配置状況(配置決定状況を含む)の調査も行う。両者を地方財政力や地域産業の特徴、さらには総合行政との関係も視野に入れて、教育の機会均等の観点から、その適切性を判定する。 研究最終年度(平成27年度)には、過去二年間の分析結果を基に地方自治体による教育施策の適切性判定事例を整理し、事例間に生じるであろう共通項を基に適性判定モデルの開発を行い、成果を学会発表や学術論文として発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究では、地方自治体ごとの栄養教諭の配置状況を、その配置決定のプロセス等に注目して比較分析を行った。当初予定では、これに続けて、いわゆる「新しい職」である副校長、主幹教諭、指導教諭の配置状況を比較して共通の適切性判定要素の抽出を行った上で、フィールドワークによる検証を行う予定であった。 しかし、地方自治体における栄養教諭の配置状況を全国的に明らかにした結果、義務教育費国庫負担法における国庫負担率の変化が、同法の目的と矛盾した効果をもたらす可能性や、さらにこれが、当該地方の産業状況、さらには地方自治体の総合行政施策との関連で、評価されるべき性質があることが見えてきた。 その結果、研究目的の達成上、研究対象とすべき内容の優先度が変化し、基準財政需要額の内実や地方自治体の総合行政と教育施策の関係分析等、文献調査の優先度が高まり、フィールドワークの必要がなくたったためである。 平成26年度には、基準財政需要額の内実や地方自治体の総合行政と教育施策の関係分析等を実施する必要にせまられている。これは当初計画段階にはなかった内容ではあるが、平成25年度の研究で獲得できた研究成果に基づき、研究目的達成のために必要が自覚されてきた事項である。研究優先度の変化によって生じた当該予算は、主に当該領域に関する先行研究の確認・整理と、実態調査の為の資料収集等の文献調査費に、その多くを充てる計画である。
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