研究課題/領域番号 |
25590284
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中森 誉之 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (10362568)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 特別支援教育(視覚障害) / 点字 / 触読 / 文字 / 音声 / 聞き取り / 発音 / 小学部外国語教育 |
研究概要 |
本年度は、教育現場の実態を調査する目的で、特別支援学校(視覚障害)に対する全国調査を実施した。まず、調査に先立って複数の教員に面談を行い、実状について詳細に聞き取った。調査内容を明確化しながら視覚特別支援教育専門の研究者と検討を重ねて質問項目を緻密に検証した。英語点字指導、リスニング指導、発音・発話指導について、点字と墨字(点字に対する普通文字)の調査紙を作成した。2013年9月に全国の特別支援学校(視覚障害)長宛に送付し、1ヶ月後には60校から回答を得た。重度重複障害者など、調査対象となる学習者が不在の学校も数校あった。回答者内訳は、中学部49 名、高等部55名の英語教員である。 その結果、文字(点字)指導のタイミング、聞き取りと発音指導の方法、小学部での英語指導拡充に向けて考慮すべき課題が顕在化した。はじめに、学習段階に合わせた教材・教具の充実が求められる。点字版の検定試験過去問題、読解素材、文法練習帳などは、国立特別支援教育総合研究所やサピエからも提供されている。次に、指導技術の一元的な蓄積が必要である。特別支援学校教員の専門性の維持は、教育の質を確保するために極めて重要である。特に、点字とは縁がなかった晴眼者による段階的な略字・縮字指導は、正確に規則を熟知しなければならない点で非常に困難である。また、特別支援学校と、統合化を進めている小中高等学校の再定義や機能の補完に関して、専門性を伴わない小中高等学校での教育は、学習者にとって如何なる意義を持つのかを十分に考慮する必要がある。専門的な介助を受けることにより、学習困難や学習遅滞を回避することができるからである。最後に、教育の機会均等の保証があげられる。音声教具が備わっていなかったり、英語母語話者による指導が行われず、表出技能を全く指導していない学校があり、極めて不平等である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画内容は、すべて遅滞なく完了した。「研究実績の概要」で詳述をしたとおり、全国調査を準備して実施し、結果を集計した上で考察を加え、「特別支援学校(視覚障害)における英語音声指導についての全国調査結果報告」と題する調査資料論文としてまとめた。そして、折に触れて協力を賜ってきた国立特別支援教育総合研究所より結果を公開する予定で進めてきたが、突然の投稿資格変更により、研究所外からの応募による公開を拒否されてしまった。今回の成果は、専門機関である国立特別支援教育総合研究所から発信することが最善であると考えており、こうした閉鎖的なあり方は、特別支援教育の将来を真剣に考えていく上で非常に残念である。英語教育関係の学術誌に投稿せざるを得ないが、特別支援教育に対してどれだけの還元ができるのかは未知数であるため、愕然としている。全国調査では、教育現場からの様々な声が寄せられ、諸課題を検討していく上で非常に貴重な資料を収集することができた。引き続き集計結果の効果的な公開先を求めていくが、最終的にはこの研究の報告書に盛り込むことになるかもしれない。 初年度の成果公開についてはこうした状態にあるが、この調査結果を含めながら、最新の認知科学の知見に基づいて詳細に検討して、洋書と和書にまとめるべく執筆を始めている。世界的に見てもこうした書物は刊行されてはおらず、国内外から出版への切実な期待が寄せられているため、学術書として体系的に展開していくこととする。完成までには2年程度の時間を見込んでいる。検証に不可欠な文献の収集は終わっており、精緻に論考を重ねていく段階にあるが、専門的知見に関しての情報収集を実施するため、国内外に取材に行く計画である。
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今後の研究の推進方策 |
全国調査結果を踏まえて、音声の知覚、発音・発話、視覚・触覚と空間認知、点字と触読、音声チャンクに関して、学術的根拠に基づいた検証を行っていく。こうした成果は、論文の形式では断片化してしまう上に、紙幅が全く足りないため、今後2年間で洋書と和書にまとめたい。平成26年度は音声面に関する研究、平成27年度は視覚と触覚に関する研究と、教育への提案を行う。 具体的には、音楽と言語の知覚に関する類似性と相違性の明確化、言語の表出における調音コントロールの位置づけなどについて、現在までに得られた科学的な知見を検討していく。視覚に依存しない音声処理のメカニズムやプロセスの解明を目指す。その上で、聞き取り、発音、発話指導に向けた、効果的かつ効率的な指導理論を構築する。 次に、視覚と言語習得の関係について検討を加える。視覚障害者は、視覚情報に依存することなく空間を認識しなくてはならない。最近の認知科学の成果では。触覚が空間概念を形成していく上で、重要な役割を担っていることがわかっている。触覚と言語処理の関わりについて追究する。 さらに、音声と文字を結びつける点字学習について検証を行う。本来、言語は、音声学習が先行して音声基盤が脳内に構築されてから文字学習に移行するため、この根本的な習得の順序性を逸脱した指導は著しい困難を伴うことは理論的に明らかであるが、一般的に知られてはいない。新しい外国語の点字体系を学ぶと同時に新しい音声を学習するのではなく、音声に慣れてから音声を表記する手段としての点字を学習することが、学習者のつまずきを防ぐことになる。これは英語圏を始め、文字学習において遵守するべき要件となっており、外国語学習では特に留意すべき観点である。 最後に、音声中心の外国語指導について、方法論を構築する。場面や文脈、状況に応じて、音声的なまとまりによって理解と表出を行うチャンク法を提案する。
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