研究実績の概要 |
有機薄膜と基板の界面での光励起過程は有機電子素子の機能性の理解に不可欠な素過程である。光励起では、分子内遷移が主要な経路であるが、基板-分子間相互作用が遷移に大きな寄与をする場合がある。申請者は、2光子光電子(2PPE)分光法を用いて、グラファイト(HOPG)上のルブレン(5,6,11,12tetraphenyl tetracene)薄膜での光励起への基板の非占有鏡像準位(IPS)の顕著な影響を報告したが、本研究では、光電子放射電子顕微鏡(PEEM)で共鳴励起過程を可視化することを目的とした。特定の分子軌道と基板IPSが相互作用する空間領域を明らかにした。HOPG上のルブレン分子の被覆率が1層以下の場合、励起光が4.4 eV近辺では、明るい島状構造が観測された。他の励起光では膜は均一に見え、また、1層以上の被覆率ではどの励起光でも島状構造は観測されなかった。2PPE分光では1層以下の膜で、特定の非占有準位(Lnと表記)への非常に強い共鳴励起が4.4 eVの励起光で観測されたが、この共鳴励起が膜の特定の島部分でのみ起こることが明らかになった。Ln共鳴の起こる島の周りは、PEEM像の明るさから、1層膜である。2PPE分光では基板上のIPSが観測されるが、PEEM像と比較すると、裸の基板は共鳴の起こる島の中に存在する。強い共鳴は、分子のLn軌道と基板のIPSが混成することで起こることが確認された。Ln軌道は、2PPEの偏光依存性と量子化学計算からルブレンの4つのフェニル基を囲む、空間的に大きく広がった分子軌道である(Superatom Molecular Orbital (SAMO))。ルブレンのナノ集合体と基板が共存場所では、対称性の高いSAMOとIPSが相互作用して強い共鳴を起こす。島は欠陥であり、有機薄膜での光励起に欠陥が大きな役割を果たすことを示すことができた。
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