研究課題/領域番号 |
25600005
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今野 巧 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50201497)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イオン結晶 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
本研究では、錯体分子力を用いて、カチオンはカチオン同士で、アニオンはアニオン同士で集積するような異常電荷分離状態をもつ金属超分子ナノ構造体の開発について検討した。このようなナノ構造体構築の鍵となるのは、構成単位となるカチオン性あるいはアニオン性金属錯体に超分子相互作用の形成が可能な官能基を複数導入する事である。そこで、今年度は、まず、平成25年度に引き続き、親水性の配位子として含硫アミノ酸類を、一方、疎水性の配位子としてジフェニルフォスフィン類を選択し、これら有機配位子と直線性金属イオンである金(I)イオンとの反応経路を設定することにより、親水性基と疎水性基を併せ持つキラルな金(I)多核錯体を新たに合成、単離した。得られた金(I)錯体については、IRスペクトル、NMRスペクトル、吸収、CDスペクトル、ならびに元素分析により同定するとともに、単結晶X線構造解析によりその分子構造を決定した。また、各種金属イオンとの定性的な反応により、この種の錯体が第二の金属イオンに配位可能な錯体配位子として機能することを確認した。次に、上記で得た金(I)錯体および昨年度得られている錯体に含硫アミノ酸部位のキレート配位に有利な金属イオンを反応させることにより、水素結合能とπ-π/CH-π相互作用能を併せ持つ両親媒性のキラルな多核金属錯体の合成を試みた。その結果、この反応溶液に、様々な無機塩、有機塩、錯塩を添加したところ、いくつかの無機塩を添加した場合に単結晶を得ることができた。これらの化合物については、各種分析機器を用いて、それらの同定ならびに基礎物性の調査を行うとともに、単結晶X線解析により、その大まかな分子構造を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施の概要に記したように、異常電荷分離ナノ構造体の構築に有用と考えられる錯体配位子の合成に成功している。また、その構造を単結晶X線解析から明らかにし、金属イオンに対する錯体配位子としての機能性を認めている。さらに、金属イオンとの反応により、目的とするイオン性の多核金属錯体の形成も認めており、対アニオン種の添加により結晶性化合物も単離している。そのいくつかについては、単結晶X線解析も行い、錯イオンの構造と異常電荷状態の形成も認めている。従って、研究は順調に進展したと言えるが、良好な単結晶が得られなかったため、十分な構造解析結果を得るに至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
いくつかの化合物については、単結晶X線解析により錯イオンの構造を明らかにするとともに、異常電荷分離状態の形成も認めている。しかし、構造解析の精度が良くないために、細部についての詳細な構造については不明である。そこで、27年度は、これらの化合物について、結晶成長の条件を工夫することにより、極めて良好な単結晶を作成し、より精度の高い単結晶X線解析を行う。また、他の化合物についても、単結晶の合成とX線解析による固体構造決定を進める。これにより、錯体分子力による異常電荷分離ナノ構造体の構築、ならびに、この種の構造体の形成に関する指導原理を追求して行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、機能性錯体配位子の合成とそれをベースとする電荷分離型ナノ構造体の合成を行った。また、代表的な化合物については、その単結晶の合成とX線解析による構造決定を試みた。その結果、ナノ構造体の単離に成功し、そのおおまかな構造を決める事ができた。しかし、良好な単結晶が得られなかったために、学会発表や学術誌への公表には不十分な解析結果しか得られなかった。そこで、今年度は、結晶成長の条件を改良するなどして、良好な単結晶を合成する。また、放射光施設を用いた構造解析実験を行うなどなどして、公表に十分値する解析結果を得るために、研究期間の延長を申請する。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、平成26年度の残額を利用して、これまで開発してきた機能性錯体配位子をベースした電荷分離型ナノ構造体の合成手法の確立を実施する。特に、ナノ構造体の結晶成長の条件を種々工夫することにより、極めて良好な単結晶の合成と単離を行う。得られた単結晶については、放射光施設をも利用したX線解析によりその構造を精密に決定するとともに、解析結果を国内および国際学会において発表する。平成26年度の未使用額は、これらの経費(ナノ構造体の合成手法の確立、単結晶の合成とその構造解析、解析結果の学会での発表)に充てる。
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