研究課題/領域番号 |
25600012
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山田 豊和 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 特任准教授 (10383548)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 / 磁性 / ナノ材料 / 表面・界面物性 / スピンエレクトロニクス |
研究概要 |
「スピン偏極STMによる単一ナノ分子グラフェンの磁気構造解明」を目指して、自作した300Kと4Kの2台の超高真空・スピン偏極STM(走査トンネル顕微鏡)を用いて研究を進めてきている。2014年度、さらに3台目の極低温・高磁場STM装置を作成しつつ研究を進展させる。 2013年度までに得られた成果を述べる。極限最小素子開発を目指し、最小の分子の一つであるCO単一分子を、STM探針によるマニピュレーション技術を駆使して人工的にナノ分子グラフェンを創成したい。Cu(111)を基板として使用した。原子レベルで平坦にすることで、極低温環境下で基板表面には自由電子による干渉パターンが鮮明に確認できた。基板上の残留不純物量は1%以下であることをSTM原子像から確認した。なお残留ガスの半分は既にCO分子であった。STMを6Kに冷やした状態で、超高真空STM解析槽に0.01L程度COガスを導入し、短時間、STM周りの冷却シールドをあけることで単一分子を基板上に僅かに吸着させることに成功した。 吸着したCO単一分子の探針を移動し、電圧パルスおよび接近させることにより、CO単一分子のマニピュレーションに成功した。Cu(111)表面上にCO単一分子が吸着した際、Cu(111)の自由電子による量子干渉波が、どのような影響を受けるのだろうか。精密な分光像測定を行いCO単一分子およびダイマーの量子干渉波への影響を解析している。 さらに、STM室を改造し、基板を極低温に保持した状態で瞬間的にシールドをあけ、Feを僅かに基板に蒸着できるようにした。その結果、基板にCO単一分子だけでなく、Fe単一原子磁石を吸着させることに成功した。Fe単一原子のCu(111)上での電子挙動を測定し現在解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初の目的では、2013年度にCu(111)基板上にCO単一分子を吸着し、STM探針マニピュレーションによりカゴメ構造を作成し、ナノグラフェンとすることを目標とした。さらに磁性単一原子を吸着し、ナノグラフェンと磁性原子の相関の解明を目指した。 実際には、Cu(111)基板上へのCO単一分子の吸着およびマニピュレーションに成功したが、まだ、カゴメ上に丁寧に配列しナノグラフェンとするには至っていない。しかし、高精度でのCO単一分子およびダイマーの電子状態分布像の測定に成功し、表面形状像では見られない量子干渉波の振る舞いを明確にとらえることができた。 計画よりもやや遅れた理由は、CO分子の吸着の制御に手間取ったためである。超高真空STM解析槽にCOガス導入機構を取り付けた。ここよりわずかにガスを導入し、極低温STM内にセットした基板に吸着すればよい。当初、簡単にできると考えた。手法は、COガスを導入、すぐに手動でSTM周りの冷却シールドあけCO分子を吸着させる。単一分子として保持するためには、ごく僅か吸着させればよい。文献等から1L程度でちょうど良いとあったため、これに従った。しかし、STM解析槽に導入した300Kの熱エネルギーを有するCO分子は、冷却シールドをあけた途端、クライオ効果により大量のCO分子が一気にSTMめがけて吸着した。結果として、基板に1分子層以上のCOが吸着してしまった。幸い、Cu(111)表面をCO分子が1層覆った(2x2)表面での特異なCO単一分子のホッピング挙動の観察には成功したが、本来の単一分子吸着には成功しなかった。その後、再度クリーニングを行い、徐々にCOガス導入量やシールド開閉時間の制御を行い、ようやくCO単一分子となるような最適な吸着条件を見つけることができた。 単一磁性原子の吸着に関しては、当初の計画通りFeの単一原子の吸着に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
このように試行錯誤の末、2013年度原子レベルで平坦なCu(111)基板上にCO単一分子とFe単一原子磁石を吸着させることに成功した。これにより、ようやくナノグラフェン作成に向けて研究を本格化できる。CO分子が基板上でどのような対称性をとったときに、どのような電子スピン構造を有するのか、系統的に探索する。CO単分子をカゴメ上に配列すると電子状態はディラックコーンのような特異な特性を発現し、グラフェンのような振る舞いをすることが期待されている。しかし、本当にそうなのか慎重に探る。とくにCO単一分子が2,3,4個と結合していき、6個となった際にグラフェンとなるのか。6個であっても、1次元でなく2次元的な六回対称でなくてはグラフェン特性を示さないか。またカゴメ上でも、6個でなく5個になった場合(あえて欠陥を挿入)どうなるのか確認する。対称性と電子構造の関係を慎重に測定する。 さらにFe単一原子がある。CO単一分子が吸着した状態で、本の僅かにFe単一原子を吸着する。CO単一分子集合体またはナノグラフェンに、1個のFe原子が及ぼす影響を電子像観察で解明したい。特に、2つの距離を徐々に接近していった際、どの程度から影響を及ぼしあうのか明らかにする。また、Fe単一原子をSTM探針でピックアップすれば磁性探針となる。これにより、その場で、スピン観察が可能となる。 これによりCO分子集合体の示すグラフェン特性の解明、そしてFe単一原子を用いた磁気応答を明確にする。
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