本研究の目的は触媒を用いずに直接グラフェン膜を大面積堆積するホットメッシュ堆積法を提案し、加熱金属線上でのペンタセンの分解反応および分解種の気相重合反応を検討することである。 まず、ペンタセンの供給・分解機構を作製し、基板との距離を10~700mmの範囲で制御できるよう、既存装置の改造を行った。次に、分解種のメッシュ温度(Tmesh)依存性の検討し、Tmeshが1300℃以上で分解するが、この分解温度以下でもペンタセン膜の結晶構造が変化することを明らかとした。Tmesh =1400℃で作製した有機膜のシート抵抗はペンタセン膜に比べて6桁高く、この膜の主な分子はジヒドロペンタセンであった。また、ペンタセン膜に原子状水素を吹き付けた場合、Tmesh =1400℃ではペンタセン膜に変化は見られず、ペンタセンの分解は主にWメッシュ上で起こっていることが確認されたが、Tmesh =1700℃(原子状水素密度が高い場合)ではペンタセン膜のエッチングが起こることも明らかになった。さらに、Heガスを用いた場合、Tmesh =1400℃でもペンタセンの分解は起こらず、H2ガスの存在がペンタセンの分解に影響していることも示された。 メッシュ・基板間距離(Dms)が50mmでは、気相重合反応が起こっておらず、気相重合反応率を0.001%と仮定し、Dms = 300mmのとき、成膜時の最適ガス圧を見積もった結果、長さ1umのアームチェア型およびジグザグ型ナノグラフェンで67Paおよび40Paと見積もられたため、Dmsを100,300mmと変化させて成膜を行った。Dmsを変化させて堆積すると吸収ピーク位置が変化し、Dms(気相重合反応数)が膜構造に影響を与えていることが明らかとなった。雰囲気ガスやDmsの制御により有機膜の分子構造を制御できる可能性が見出された。
|