本研究では、イオン液体とグラフェン電界効果トランジスタを組み合わせたバイオセンサーの開発を目標とし、以下の3項目について研究を行った。(1)イオン液体選定の指針:本項目では、種々あるイオン液体の中から、どのような観点でイオン液体を選定すべきかについて検討を行った。静電容量が異なる4種のイオン液体を用いて、同一のトランジスタをトップゲート動作させた際の伝達特性からキャリア移動度を導き出したところ、イオン液体の静電容量が大きいほどキャリア移動度が低くなる傾向が見られた。これはグラフェン/イオン液体界面にポーラロンが形成され、グラフェンチャネル内のキャリアが液相のイオンを引きずりながら移動する機構を考えることで説明できる。(2)PET基板上グラフェンpHセンサーの作製と評価:本項目では、PETフィルム上に転写したグラフェンをチャネルとするトップゲート型トランジスタを用いたpHセンシングについて検討を行った。Cu箔上にCVD成長した単層グラフェン膜をPETフィルム上に転写する技術を確立し、これを用いたトランジスタを水溶液中でトップゲート動作させることに成功した。水溶液のpHを4~6まで変化させたところ、伝達特性のディラック点がpHに応じてシフトし、その感度は約77 mV/pHであった。(3)Irを用いたグラフェンのCVD成長:本項目では、単結晶のグラフェンを成長する下地としてIr(イリジウム)に着目し、サファイア基板上にエピタキシャル成長させたIr上にグラフェンをCVD成長する技術について研究を進めた。ラマン分光測定から、Ir上に単層グラフェンを成長することに成功した。また、Ir下地の表面平坦性が高いほどグラフェンの結晶性が高くなることが分かった。以上の3項目で得られた成果は、イオン液体を溶媒とするバイオセンサーの開発を進めていくにあたっての重要な基盤技術となる。
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