本研究の目的は、超高真空・低温・走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いてタンパク質などの生体分子を単一分子レベルで構造解析することであり、分子の真空蒸着法としてエレクトロスプレーイオン化法を利用する。このエレクトロスプレーイオン化法は、先鋭化したキャピラリーに高電圧を加え、そこにターゲット分子を溶かした溶媒を注入することで、テイラーコーンを形成してイオンビームがスプレーされる現象を利用している。そして、そのイオンビームを真空中に導入することで、基板表面への蒸着を可能にする。平成25年度は、スプレー形成条件や蒸着条件を最適化し、目的の分子のみが溶媒などの不純物無しで蒸着できることを目指した。これによって、鎖長が10nmから100nmにも渡るオリゴチオフェン分子の形状とコンフォメーションの関係が高分解能STM観察によって明らかになった。特に、鎖長が長くなるととぐろを巻くような形状になることも分かった。この実験によって、蒸着法として、溶媒などの不純物が基板表面に残留しないために、複数回に分けて蒸着することが良いことが分かった。平成26年度は、ターゲットを生体分子に移し、グルカゴンなどのタンパク質の分子蒸着およびSTM観察を行った。生体分子では、真空に不都合な水を溶媒として用いるため、蒸着条件の最適化に苦労したが、再現性の良い分子蒸着を実現できた。現在、高分解能観察を進めているところであり、今後、多様な分子形状とフォールディングの関係を明らかにして行けると考えている。
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