すべての血液細胞の源となる造血幹細胞は、マウスでは胎生10.5日目ごろより背側大動脈腹側血管腔から発生する。近年、ゼブラフィッシュなどを使った実験により血流による物理刺激が造血幹細胞発生を促すことが示唆され注目を集めている。この機構を解明するには、マイクロ流体デバイスを用いる実験系が最適であると着想した。本研究では、マイクロ流体デバイス内の微細流路に大動脈に相当する細胞を培養し、送液培養で細胞にシアストレスを与えることで、胎生期の背側大動脈における造血幹細胞発生部位を模擬した実験系を作り、血液細胞の産生へのシアストレスの影響を明らかにすることを目的とした。 96時間後にES細胞から分化した細胞群をマーカー分子の免疫染色で確認したところ、CD41抗体で染色された血液細胞とCD31抗体で染色された血管内皮細胞が確認できた。また、96時間の分化誘導の間をTime-lapseで撮影したところ、血液細胞が中胚葉細胞から盛り上がって産生する瞬間を観察することができた。次に、送液培養条件を静置から125 cm/hの5条件として、血液細胞産生数を比較したところ、20 cm/hで産生数が多いことが示された。また、この流量で送液時間を12時間に減らしても、24時間と同等に血液細胞の増加が見られた。一方、静置培養条件下でNO濃度の影響を調べたところ、NO発生剤SNAPを加えた場合には、5 uMのときに血液細胞産生数の増加が見られ、それ以上の濃度のときは減少した。NO消去剤Carboxy-PTIOを加えたときには、予想通り血液細胞数の減少が見られ、NOは血液細胞産生に関与していることを裏付けた。
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