研究実績の概要 |
Bi系マルチフェロイック物質は結晶対称性により磁化および誘電分極の大きさが大きく変わる。そこで、本年度は2つの異なる下地上(SrTiO3基板およびSrTiO3/LaSrMnO3積層膜上)にBiFeO3をr.f.マグネトロンスパッタ法によりエピタキシャル成長させ、構造解析を透過型電子顕微鏡の回折パターンのシミュレーションおよび電子線後方散乱回折(EBSD)法により高精度に行った。その結果、SrTiO3基板およびSrTiO3/LaSrMnO3積層膜上のいずれにおいてもBiFeO3極薄膜は空間群がR3cの菱面体晶構造を有していることが明らかとなった。R3c構造は自発分極値こそP4mnの正方晶構造より低いが、磁化が高い特徴を有しており、さらに電気磁気効果も室温で現れる。極薄膜においても明瞭な強誘電性が比較的大きな自発分極と共に室温で確認された。また、自発分極のベクトル成分が同一方向に揃っており、自発分極はダブルポテンシャルであるにもかかわらず、1つのポテンシャルを優先的に占有する極薄膜ならではの特徴が確認された。これは、約1%の格子ミスフィットにより膜面垂直方向にAサイトのつくる格子が非対称構造となっていることが考えられるが、本課題で用いた構造解析の手段では判別が困難であった。非対称構造となることでBサイトイオンの変位量が影響を受けることが推察されるため、極薄膜における大きな自発分極の起源を探る上ではさらなる詳細な構造の理解(例えば、STEM等)を行う必要があることが示唆された。 続いて、Bi(Fe,Co)O3エピタキシャル膜の磁気特性について調べたところ、R3c構造を有する限りある一定の磁化が増大することが明らかとなった。しかし、基板種により自発磁化の大きさが異なり、極薄膜における磁化の増減は界面の応力、電子軌道の重なりなどの諸状況に影響を受けていることが示唆された。従って、本成果はBi(Fe,Co)O3の極薄膜を障壁材料とした巨大電気抵抗効果の発現が期待できることが明らかとなった。
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