研究課題/領域番号 |
25600073
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松井 裕章 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (80397752)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 表面プラズモン / 酸化物 / 強相関 / モット相転移 / 中赤外 / メモリー効果 |
研究概要 |
外場制御可能なプラズモニックマテリアルの創製に向けて、本研究では、光・熱・電場印加に伴い絶縁相(単斜晶系)から金属相(正方晶系)にモット相転移が生じる二酸化バナジウムに着目した。この巨大な相転移現象に基づく表面プラズモンの外場制御は、従来の表面プラズモン制御と大きく相違する。本年度は、VO2ナノドット構造における表面プラズモン共鳴の光学的性質を明らかにした。 ナノ構造体は、インプリントリソグラフィー技術を用いて作製し、その加工サイズは250 nmから816 nmまで系統的に変化させた。表面プラズモン共鳴のピークエネルギーは、816 nmのドットサイズにおいて0.4 eVの中赤外域に観測された。ピークエネルギーは、ドットサイズに強く依存し、ドットサイズの縮小と伴に高エネルギー側にシフト系統的にシフトした。プラズモン寿命は、250 nmの試料において4 fs程度を示し、816 nmの試料では12 fsの大きな数値を与えた。この結果はVO2の伝導帯の電子バンド構造に起因する。フェルミ準位から1.2 eVに局在した3d軌道が、光励起に伴う電子間遷移(3d軌道から伝導帯空位)が生じ、プラズモン振動のコヒーレンスが阻害される。故に、近赤外域(0.8-1.0 eV)はプラズモン励起が弱い。一方、3d軌道からの電子遷移が小さい中赤外域(0.4-0.6 eV)では、プラズモン励起が増強しプラズモン寿命の増大に至った。故に、VO2は中赤外域で良質な表面プラズモン共鳴の出現が確認された。更に、共鳴強度は、温度上昇及び下降伴って、メモリー効果を示し、その相転移幅は約32oCである。一方、共鳴ピークエネルギーの相転移に必要なメモリー幅は16oC程度の鋭い変化を示した。これは、2次元ナノドットアレイに起因する近接場効果が関与していると考慮される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、VO2における表面プラズモン共鳴の理論的考察、ナノ構造制御及び表面プラズモンの実観測を目標として挙げていた。理論的考察として、長波長近似に基づくナノディスク計算及び3次元電磁界(有限時間領域:FDTD)計算を実施した。VO2の複素誘電率に基づいて、ナノドットの高さと幅をパラメータとして計算を行った結果、近赤外から中赤外域にかけて表面プラズモン共鳴ピークが見出された。理論的結果を実験的に観測にするために、VO2のナノドット構造体へ微細加工を実施した。酸化物材料の微細加工は、ナノインプリント技術と物理化学エッチングを併用した作製した。加工前のVO2薄膜は、パルスレーザー堆積(PLD)法を用いた。ナノドット構造体は、250nから1000nmの範囲内で系統的に制御した。ナノ加工されたVO2試料は、赤外(顕微)分光から表面プラズモン共鳴を実験的に観測し、モット相転移に伴うプラズモン共鳴のヒステリシス効果を確認した。更に、近接場分光を適用して、モット相転移とプラズモン共鳴の相関性をナノスールの領域で観測した。故に、本年度の研究計画は概ね達成されたと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、VO2のプラズモニック機能の電場制御及びテラヘルツ帯域への応用を検討する。表面プラズモンの電場制御に向けて、1次元のナノストライプ構造体を活かして電場印加に伴う金属・絶縁体転移(モット相転移)を誘起させ、グレーティング構造に起因するプラズモン共鳴を観測する。ナノストライプ構造体の間隙空間には、局所光電場増強が出現し、表面プラズモンが励起される。故に、電場制御に伴う抵抗スイッチング効果と局在表面プラズモンのスイッチング効果を対比させ、VO2におけるプラズモニック機能と動的な電子状態の変化の相関を解明する。ナノストライプと構造と表面プラズモン励起に関する理論的予測とナノ構造体の形成は、平成25年度で実施する電磁界解析、及びナノ加工技術を適用する。分光計測は中赤外の顕微分光を適用する。 更に、ナノストライプ構造体を活かして、テラヘルツ(THz)領域におけるVO2の表面プラズモンの電場印加に対する光学応答を調査する。VO2の絶縁相と金属相の大きな電子状態の変化は、偏光制御の応用に期待される。測定に向けて、時間領域分光(THz-TDS法)を用いて、VO2のプラズモンの電場制御を実施していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で使用する酸化物試料はパルスレーザー堆積法を用いて作製しており、来年度、成膜装置に必要な物品を購入したく、平成25年度は中赤外域で偏光測定を実施するための偏光光学素子のみを購入致しました。VO2ナノドット構造体は、VO2薄膜からトップダウン手法により作製するため、成膜装置の性能はVO2の結晶品質に大きな影響を与える。故に、来年度はパルスレーザー堆積法で利用するエキシマレーザーの部品を購入したく、平成26年度と予算を併用して執行するためであります。 平成26年度の使用計画は、 主にレーザー部品群の購入(80万円)を主な購入費として計上する。また、ナノ構造体用の石英モールドとして70万円を計上致します。残額は、出張費や研究継続に必要な消耗品として購入致します。一方、分光計測に関する研究実施は、平成25年度において整備が完了しています。故に、平成26年度は、試料作製費に対して予算を執行したく思っております。
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