研究課題/領域番号 |
25600095
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
平山 博之 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (60271582)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ラシュバ効果 / 表面 / 電子散乱 / スピン |
研究概要 |
(1)Si(111)基板上に20ML程度の膜厚のAg(111)超薄膜を2段階エピタキシャル成長法で作成し、この上に1/3MLのBi原子を蒸着することによって、ラシュバ効果によりスピン偏極した表面バンドを持つBi/Ag(111)√3x√3表面を作成した。作成した表面の原子配列をSTM、またその電子状態密度とエネルギー分散関係をSTS, dI/dVイメージングにより観察し、所望の表面電子状態を持つBi/Ag(111)√3x√3表面が実現されていることを確認した。 (2)Coワイヤーを通電加熱することでCo原子を蒸着する蒸着源を作成し、Ag(111)超薄膜の表面上にCo原子の蒸着を行った。一定の電流によって加熱したCo蒸着源から、Ag(111)超薄膜表面上にCo原子を蒸着する時間を徐々に増やし、それぞれの蒸着量で表面のSTM観察を行うことにより、表面のCo島被覆率を測定し、Co原子の蒸着速度を評価した。 (3)Ag(111)超薄膜表面上に形成されたCo島には、下地のAg(111)格子とCo島の格子の整合性による周期的なパターンがSTMで観察されることを見出した。また、膜厚によるCo島の格子歪の変化により、STSスペクトル中に現われるCo島のd電子状態に起因する電子状態密度のピークは、Co島の膜厚とともにFermi準位方向にシフトしていく傾向があることを見出した。 (4)Co原子が孤立した形でBi/Ag(111)√3x√3表面に蒸着した状態を実現すべく、Ag(111)超薄膜表面上に極く少量のCo原子を吸着させ、これが島にならずに孤立した原子として吸着する状態を実現する条件の探索を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究に用いる、Bi/Ag(111)√3x√3表面の作成、およびこの表面に期待される原子配列や電子状態が実際に実現されていることは、本年度完全に実証された。またCo原子蒸着源の作成とその性能評価についても、研究は計画通りに進んでいる。さらに本研究では、このCo蒸着源を用いて、Ag(111)超薄膜表面に作成した超薄膜Co島の電子状態のdバンドが、Co超薄膜の膜厚増加に伴う格子歪緩和に伴い、Fermi準位に近づくようにシフトすることも明らかになった。 ただし、Bi/Ag(111)√3x√3表面にCo単原子が孤立した形で吸着する構造の構築については、Co蒸着量を減らした場合でもクラスターが出現してしまうため、現時点ではまだ実現できていない。
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今後の研究の推進方策 |
Co単原子が孤立した形で吸着した状態で形成されない理由として、基板として用いているAg超薄膜およびその上に構築したBi/Ag(111)√3x√3表面構造は、Ag超薄膜の上に形成されている為に、バルク表面に比べてCo原子吸着に対して不安定であり、クラスターを容易に形成してしまう可能性が考えられる。このため本年度は、昨年度導入した試料電子衝撃過熱用電源を用いてAgバルク単結晶の(111)清浄表面を準備した上で、この上にBi/Ag(111)√3x√3表面構造を用意してCo吸着を行うこと、およびCo原子を吸着させる表面を、Bi/Ag(111)√3x√3表面と同様、スピン分裂した表面バンドを持つBi(001)超薄膜表面に切り替えて実験を行うことを予定している。 これらの基板表面の構造と電子状態は、STM,STS,dI/dV像観察などできちんと評価を行った上で、これらの表面上に少量のCo原子を蒸着し、Co単原子がスピン分裂した表面バンドを持つ2次元系の上に孤立して吸着した状態を作成する。そして、このCo原子周囲でのスピンフリップを伴う散乱の有無やその確率を、STMを用いた電子定在波観察により明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、Co単原子が孤立して吸着した系を予定していた方法で作成することに手間取ったため、関係する実験遂行のための消耗品購入に関連して当該助成金が発生した。 バルクAg(111)基板およびBi超薄膜表面上でのCo単原子吸着系の構築と、そのスピンフリップ電子散乱過程を解明に向けた実験遂行のための真空部材、寒剤などの消耗品購入、アメリカ真空学会での研究成果発表、秋と来春の物理学会での研究成果発表、英文journalへの論文掲載およびこのための英文添削に使用する。
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