研究課題/領域番号 |
25600098
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
酒井 朗 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20314031)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | メムリスタ / 単結晶 / フォーミング / フィラメント / 透過電子顕微鏡 / 集束イオンビーム加工 / 酸素空孔 / 電子線リソグラフィー |
研究実績の概要 |
当該年度は、メムリスタ材料であるTiO2の単結晶に着目し、フォーミング現象に寄与するフィラメントの結晶構造を明らかにした。4端子制御へ向けての適用が容易な平面型の2端子素子をTiO2(100)面上に試作し、フォーミングに係る電流-電圧特性を測定した。測定後のTiO2単結晶には複数のフィラメントが形成されており、それらの形態は光学顕微鏡によって明瞭に観察することができた。また、集束イオンビーム加工装置を駆使してフィラメント部から局所的に透過電子顕微鏡(TEM)観察用試料を抽出し、TEM観察によりその構造を決定した。電子線回折パターンには、フィラメント以外の領域には見られない回折ストリークが明瞭に観測され、TEM像を併用した解析により、それらは酸素空孔によって形成される剪断面が周期的な原子面配列を乱すことにより形成された構造であることが明らかになった。なお、形成されたフィラメントはすべて[001]方向に伸びており、電界の印加方向に依存しないことが判明した。この結果は、フィラメントが伸びる[001]方向を駆動電界、それに垂直な方向(例えば[010]、[100]方向)を修飾電界とする、信号伝達相関型の4端子デバイスの設計指針を与えており、今後の素子作製において重要な示唆を与えている。 一方、同TiO2系2端子デバイスで発現する抵抗スイッチングの抵抗比を向上させるために、素子の更なる微細化を検討した。電子線リソグラフィーを用いた作製プロセスを構築することによって電極間距離が5 um以下の平面型2端子デバイスを作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、TiO2単結晶を対象にして、メムリスタ(抵抗スイッチング)特性の発現において重要な役割を果たす結晶内のフィラメントの構造に着目した。本研究が目的とする、信号伝達の相互作用を可能とするメムリスタで構成されるシナプス素子の実現には、電気伝導の駆動と修飾の両機能が必須であり、電気伝導を担うフィラメントの電気的制御と構造的制御が不可欠となる。今年度は、フィラメントの電気的特性と結晶学的特性の直接的相関が解明されており、全体の研究目的に照らし合わせて、研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度においては、新たなメムリスタ材料としてTiO2単結晶に着手した。本材料ではこれまでのSrTiO3(STO)単結晶とは異なり、結晶の対称性に依存した電気伝導が発現し、結晶内には、それを担う特有のフィラメント構造が観察された。この結果は、電気伝導の駆動電圧を加える2端子とその電気伝導機構を修飾する2端子からなる4端子デバイスを試作するうえで、非常に有効な成果である。今後は従来のSTOとともに、TiO2系での研究も進め、両者を比較実験することで、信号伝達相関機能を発現させるべく、材料・デバイス構造の最適化を図る。また、今年度から開始した電子線リソグラフィーのみならず、TEM試料作製ツールとして使用していた集束イオンビーム加工装置(FIB)も併用することで、多様な素子構造を設計・作製していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初外注する予定であった試料分析や微細加工に関わる費用が、学内施設・設備の活用によって賄うことができたため、大幅な支出削減が達成され、その分も含めて当該助成金が生じた。また、得られた成果を順次、関連する国際学会等に発表する予定で予算を組んだが、成果をある程度まとめたうえで発表時期を来年度以降に変更することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究費に加算し、本研究課題に関わる物品費、学会参加のための旅費・参加費、英文添削等に関わる謝金等に使用する予定である。
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