研究実績の概要 |
本研究の狙いは、触媒反応を制御する半導体デバイスの動作原理を実証することである。そのためにMOS(蒸着金属層・酸化膜・半導体基板)構造をもつSiにゲート電圧Vgを印加し、リーク電流を担う(エネルギーの高い)ホットキャリアを酸化膜側から金属層に注入し、電子系の励起エネルギーを用いて金属表面吸着分子の脱離を含む化学反応を誘起させることを試みた。 実験では、超高真空中にてp型Si基板の酸化膜(10~100 nm)上にFeを数 nm蒸着し、Vg印加時の脱離ガス測定を行った。10 nm酸化膜試料においては、N2Oガス暴露前では正負Vg印加で脱離ガスは観測されなかった。暴露後の正Vg印加でも観測されなかったが、負Vg印加で、脱離ガスが観測された。100 nm酸化膜試料においても同様に、N2Oガス暴露後の負Vg印加でのみ脱離が観測されたが、印加後1000 sにわたって脱離が観測された。算出ジュール熱は脱離観測時の方が小さかったこと等から、脱離は(非熱的な)電子励起過程によることが分かった。 最終年度は10 nm酸化膜試料におけるN2O暴露時、及び脱離時のガス詳細分析(四重極質量分析器のクラック・イオン化)を中心に行った。N2O暴露はN2Oに由来するガス分圧上昇の他、H2OやCを含む残留ガス(CO等)の減少、即ち、これらのガスのFe表面への吸着を導くことが判明した。一方、脱離ガスの主な成分はCO, CO2, CH4などであった。電子励起により吸着残留ガス(主成分はCOとCO2)が脱離したと結論付けることができた。しかし、CH4は非吸着性分子であるので、吸着CH4の脱離は考え難く、吸着COとH2Oのメタン化反応が誘起された可能性があることが示唆された。 本成果は、半導体デバイスが触媒制御デバイスとしても動作し得ることを示した。
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