本研究では新規な固体冷却素子として期待される電気熱量効果に着目している。原理的にはペルチェ素子よりも高効率化が可能であり、また有害元素を含まない物質の選択が可能である。 本年度は、まず強誘電体材料が持つ電気熱量効果の大きさを議論するため、熱力学に基づいた理論計算に取り組んだ。電気熱量効果による温度変化量と温度との関係を異なる印加電界で計算した。その結果、電界を印加することで常誘電体相から強誘電体相に相転移する温度領域で大きな電気熱量効果が得られることが明らかになった。理論的には10K以上の温度変化が得られ、実用化の目安とされている2kを大きく上回った。 理論的アプローチと並行して、電気熱量効果の測定系の構築にも取り組んだ。試料の温度変化を調べる方法としては複数存在するが、本研究では比較的高い測定精度と感度が得られる熱電対を用いることにした。薄膜試料の電気熱量効果を評価するために薄膜熱電対をフォトリソグラフプロセスを用いて試料表面に形成した。電気熱量効果の評価は、分極電界特性の温度依存性から見積もる方法(間接法)が多く用いられているが、本研究で開発した手法は温度変化を直接測定する方法であり、実用的価値は高いと考えている。 現時点では得られた温度変化量は0.1K未満であったが、相転移温度から遠い室温での測定であったことや十分な電界を印加できていないことを考えると、妥当な結果であるといえる。今後、測定温度を変化できるように改良を加え、測定する強誘電体材料を選定することで、より大きな電気熱量効果が得られると考えている。
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