研究課題
“物質中の電磁場を直接観察すること”は物質科学やエレクトロニクス研究において重要な意義をもつ。本研究では“小角電子線散乱法”を用いた電磁場定量解析法を開発することを目標とし研究を進めてきた。最終年度となる本年度は、小角電子線散乱法を用いた磁性材料・誘電材料における定量的電磁場解析法を研究開発するために、小角電子線散乱法に対する光学系の最適化の検証を行った。実験において小角電子線散乱法の性能を最大限活用するには、制限視野絞りの位置やサイズなどのハード面の綿密な設計、また、ソフト面でのレンズ条件・光軸調整などの光学系の安定制御が重要であることがわかった。小角電子線散乱法と従来の電子線電磁場イメージング法との検出感度などの性能比較を行った。特に、英国・グラスゴー大学との共同研究により、収差補正型走査型電子顕微鏡法と分割型検出器(8分割型及びピクセル型)を組み合わせた世界最高性能を誇る位相差コントラスト法(DPC法)との比較を行った。小角電子線散乱法では10-7rad台の信号検出が可能であるが、後者では10-6rad台に留まることがわかった。この違いは両者で用いる電子線の空間コヒーレンスの違いに起因しており、開発を進めている小角電子線散乱データを用いた位相回復法の優位性を間接的に検証できたといえる。また、小角電子線散乱法にピクセル型検出器を活用することで時間分解能や定量性の大幅な向上が可能であることがわかった。応用の一例として、キラル磁性材料 CrNb3S6やFeGeにおけるキラル磁気構造の精密磁気構造解析を行った。キラル磁気秩序における高調波成分の検出などキラル磁気構造を理解する上で重要な実験データを取得することに成功した。本手法の優れた性能を実証した研究成果といえる。
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Physical Review B
巻: 92 ページ: 220412-1-6
10.1103/PhysRevB.92.220412