非線形光学効果はレーザーの黎明期から注目された現象であるが、新規材料開発やデバイス開発など現在も活発な研究が続いている。微細加工技術の進歩により、光の波長以下のサイズの人工構造を用いて非線形光学効果を増強する技術が、非線形メタマテリアルとして注目されている。第二次高調波発生(SHG)を生じさせるためには反転対称性の有無が重要となるが、さらに偏光を制御するためには、構造の回転対称性が重要である。結晶からのSHGにおいて三回回転対称性が果たす役割については、Bloembergenらが角運動量保存則に基づいた議論を行っているが、同様の円偏光選択則が人工構造において成り立つかどうかは明らかになっていなかった。本研究では、金属二次元ナノネット構造に三回回転対称性を導入することで、偏光制御可能な高効率SHG素子へ応用できると着想した。この新規素子は、通常の非線形結晶が利用できない極短波長域で有効な技術となると期待できる。 まず、サファイア基板上の金薄膜に対し、収束イオンビームを用いて三角孔を周期的に作製し、波長以下のスケールの金属人工ナノ構造を作製する技術を確立した。この試料に基板垂直方向より円偏光の励起光を入射し、基板裏面から垂直方向に放射されるSHGの左右円偏光成分を測定したところ、この結果、三回回転対称構造の効果によって、励起光の円偏光を逆のヘリシティーの円偏光SHGが観測されることが明らかになった。さらに、人工ナノ構造からのSHGにおける偏光選択則と回転対称性の関係を明らかにし、特に三回回転対称の場合における、入射光とSH光の偏光状態の関係を導くことに成功した。この結果は、これまでに結晶で知られていたSHGにおける偏光選択則と回転対称性との関係が、人工ナノ周期構造でも成立することを意味しており、非線形メタマテリアルの新たな設計指針を与えるものであると考えられる。
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