研究課題/領域番号 |
25600123
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田嶋 聡美 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50537941)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ガスセンサー / 大気圧プラズマ / CVD / 生体模倣材料 / 炭化水素 / 表面改質 / MEMS / 吸着 |
研究概要 |
本研究の目的は車の排ガス内の炭化水素化合物の分子識別可能な小型センサーを作製するため、気体吸着能力が高い生体材料(コウイカの骨)に注目し、その物理的特性を理解したうえで大気圧プラズマを用いてコウイカの骨の生体模倣材料を作製することである。平成25年4月から2年間に以下の3課題に関しての知見を得ることを目標に当該プロジェクトを開始した。 ①現在解明されていないコウイカの骨内部の気泡吸着のメカニズムを解明する。 ②大気圧マイクロプラズマジェットを用いてコウイカの骨の構造を模した多層構造ナノカーボン構造物を作製する。ナノカーボン構造の細孔サイズをプロセスガスによって制御する。 ③異なる細孔を有するナノカーボン構造物と炭化水素化合物の吸着・脱離のメカニズムを解明し、分子識別可能な超小型ガスセンサーを作製する。 平成25年度は①と②の課題に取り組んだ。①に関しては、コウイカの骨の構造が他の動物の骨と比べ特殊であること、他の動物の骨細胞もプラズマを用いて変質させることによって3次元構造を取りうること、骨細胞の変質がプラズマ照射時間、照射方法(細胞に直接照射か培養液に照射する間接照射)によって異なることがわかった。②に関しては、大気圧マイクロプラズマジェットのプロセスガス種の計測、プロセスガス導入位置によって異なる組成、サイズのナノカーボン構造物を作製することができた。励起分子とプロセスガス分子の反応によって生じるナノカーボン構造物の化学構造変化を密度汎関数法を用いて予測した。さらに、基板表面粗さをケミカルドライエッチングを利用して変化させ、ナノカーボン構造物の高さ調整を行い、③の炭化水素化合物の吸着面積を広げる試みを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
<<平成25年度は①と②の課題に取り組んだ。>> ①に関しては実際に平成25年度にコウイカの骨の解析をおこなったところ、他の動物の骨と異なる階層構造を有することが分かった。標準的な骨芽細胞の機能研究に利用されるSaos-2の細胞自体をプラズマから異なる密度の酸素ラジカルを抽出して改質すると骨芽細胞の分化、細胞骨格の形態が変化することが分かり、骨細胞以外の細胞(通常であると単層で増殖するA549)との差異も調査し、成果を学会発表3件、論文2報(投稿準備中)にまとめた。 ②に関しては所有する大気圧マイクロホローカソードマイクロジェット(AP-HMD microjet)のノズル出口治具を2種類作製し、出口部のプラズマ内部パラメータ計測を行いつつ、異なる組成のナノカーボン構造物を作製した。プラズマの電子密度、ガス温度、励起原子・分子の空間分布を発光分光法を用いて計測した。平成25年度の時点では膜の均一性に課題が残るためさらなる治具の改良が平成26年度に必要である。プロセスガス導入前後の励起原子・分子と、プロセスガス分子の化学反応を密度汎関数法(Gaussian09 B3LYP/CAM6-311G+dp)を用いて算出し、X線光電子分光で実測したナノカーボン構造物の化学組成との比較を行った。さらに、Si基板表面粗さをケミカルドライエッチングを利用して変化させ、ナノカーボン構造物の高さ調整を行い、③の炭化水素化合物の吸着面積を広げる試みを行った。より吸着面積の広い表面を作製するため、Si基板の表面粗さをケミカルドライエッチング時の圧力と温度を変化させて制御した。当該成果を学会発表、招待講演計5件、論文1報にまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
<<平成26年度は平成25年度の①、②を発展させその知見をもとに③に取り組む>> ①に関しては、吸着特性に必要なコウイカ表面のダングリングボンド計測を行う必要がある。平成26年度は電子スピン共鳴(ESR)を利用してコウイカの骨の表面のダングリングボンド(DG)測定を試みる。 ②に関しては所有する大気圧マイクロホローカソードマイクロジェット(AP-HMD microjet)のノズル出口治具の改良を試み、均一なナノカーボン構造物ができる限り幅広(10mm程度)で作製できるようにする。作製したナノカーボン構造物のsp3 または sp2結合の割合がどのように変化するかをラマン分光法を用いて測定する。、また DG の密度がどれほど存在するかをESRを用いて測定する。 ③に関しては、ナノカーボン構造物の吸着・脱離実験用ガスチャンバーに異なる分子量 の HC の気体分子をチャンバー内に導入し、電極間の抵抗値を測定する。抵抗値と測定時のガス含有量絶対値を関連付けるため、チャンバー内に濃度を調節した HC 分子と他の原理で作動するセンサーを導入し、濃度の絶対値を測定できるようキャリブレーションする。次に複数のガスを同時にチャンバー内に導入し、分子認識が可能かどうかを単一 ガス導入時との抵抗値測定結果と抵抗―測定時間の曲線の変化の相違について調べる。この実験を異なる細孔を有するナノカーボン構造物について繰り返し、細孔のサイズとガス検出精度、分子認識の可能性について検証する。また、分子軌道法を用いて HC とナノカーボン構造物が吸着した際の化学構造の変化及び総エネルギーの変化量を算出し、マイクロ孔内での固体と吸着質の相互作用ポテンシャル[Everett and Powl, J. Chem. Soc., Faraday Trans.172 (1976) 619]の妥当性を検証する。
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