研究課題/領域番号 |
25600137
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金谷 利治 京都大学, 化学研究所, 教授 (20152788)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ソフトマター / 量子ビーム / 相補利用 / 中性子 / 放射光X線 / ミュオン |
研究概要 |
放射光X線、中性子、ミョオンなどの量子ビームを用いた研究が進展を見せている。その相補利用により、高いレベルの成果が得られることは予想されるが、成功例を見ることはほとんどない。本研究では、ソフトマター研究に焦点を絞り、量子ビームの利用法および装置の開発を含め、包括的に将来像を探り、研究成功例を示すことにより、ソフトマター研究における量子ビーム相補利用の開拓を行うことを目指した。具体的な成果を以下に示す。 バルク高分子ガラス転移のダイナミクスの測定:これまで中性子非弾性・準弾性散乱などの測定手段を用いて、ガラス転移近傍のスローダイナミクスの測定を行ってきた。今年度は核共鳴X線散乱法(SPring-8)を利用し、ピコ秒からミリ秒までの階層的ダイナミクスを調べた。それにより構造因子S(Q)の第一ピークより広角側(局所構造側)では、共同運動的なα緩和が独立運動的なβ過程に転移することを世界で初めて見いだした。 X線と中性子反射率測定による高分子薄膜のガラス転移温度の不均一性の解明:重水素化ポリメチルメタクリレート薄膜と軽水素化ポリメチルメタクリレート薄膜の交互積層膜を作成し、中性子反射率より各膜厚を温度の関数として独立に評価し、各膜のガラス転移温度を独立に求めガラス転移温度の膜厚方向の分布を決定した。 ミュオン測定:ゴム材料と添加剤を入れた高弾性率ゴム材料についてミュオン回転緩和の実験を行い、(i)ミュオン回転緩和時間の温度変化よりガラス転移が検出できること(ii)ミュオン回転緩和時間が弾性率に影響されることを明らかにした。弾性率がどのような原因により回転緩和時間に影響を与えているかは現在考察中である。 小角X線・中性子散乱による流動結晶化:今年はJ-PARCの稼働が完全ではなく、本研究については、韓国の原子炉を用いた。現在データ解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射光X線、中性子、ミョオンを用いて、ガラス形成高分子のガラス転移を調べることができた。相補利用により広範な時間範囲での緩和過程の観測が可能になった。これは、本実験計画のときから予想し、狙っていたことではあるが、それを実現することができた。その意味で、量子ビームの相補利用は概ね順調に進展していると判断する。次に行うことは、それぞれの測定から得られた情報を元にして、単独測定では得ることのできなかった情報を引き出すことである。平成26年度に実現したい。
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今後の研究の推進方策 |
今後も放射光X線、中性子、ミョオンを用いてソフトマター研究を進める。その相補利用により単独利用では得ることができない情報を得ることができることを示していく。今年度得られたデータについてもさらに解析を進め、その相補利用の有効性を示していく。 今年度は、J-PARCが完全には稼働しなかったため、低速ミュオンの実験が実現できなかった。これについては、来年度に計画をしており、X線・中性子反射率により示されている高分子薄膜のガラス転移の分布や動的不均一性についてのより詳細な情報を得るように努め、相補利用の有効性を示す予定である。
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