本研究では、ポリエチレン内張型反跳陽子比例計数管で観測される立ち上がり時間特性が、中性子入射の場合とγ線入射の場合で異なる特徴的な振る舞いを示す現象に着目し、両者を弁別することにより簡便な高速中性子サーベイメータに応用する為の基礎的研究を行った。 高速タイムデジタイザを用いて実験を行い、中性子とγ線の分離性能の信頼性について検討した。個々のパルス波形の自動観測システムを構築し、立ち上がり時間と波高値の関係を解析したところ、立ち上がり時間は波高値の低い信号で広がりを示した。また測定系のシミュレーション計算を行った結果、これが電子回路雑音の寄与であることが確かめられた。以上の知見をもとに、分離された中性子成分に対するγ線の影響を見積る方法を考案した。以前本研究室で取得された実験データを補正・再評価し、中性子エネルギーに対する検出感度依存性を明らかにした。 異なる二種類の比例計数管封入ガス [CH4(100%) およびP-10ガス]に対するパルス出力特性を調査し比較を行った。その結果、ポリエチレン内張型反跳陽子比例計数管に見られるパルス立ち上がり時間特性が、使用する封入ガスに依存しない一般的な現象であることを明らかにした。また、粒子輸送モンテカルロコードを用いて計数管内に生じる放射線のエネルギー付与の定量的な検討を行った。Cf-252の自発核分裂から放出される中性子を入射した場合には、CH4ガス中の相互作用により発生する反跳陽子と、内張されたポリエチレンから放出される反跳陽子の収量が、ほぼ同程度であることが分かった。 この現象を、簡易高速中性子サーベイメータとして応用するために、ベイズの定理にもとづいた、逐次処理型繰り込み式データ処理手法を新たに考案した。この方法を用いると、新たなデータの取得ごとにほぼリアルタイムで推定結果を表示することができることが示された。
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