研究課題/領域番号 |
25600157
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
坂口 文則 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20205735)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 数値計算手法 |
研究実績の概要 |
申請者らによって数年前に提案された微分方程式の新種の整数型解法を偏微分方程式に拡張した汎用アルゴリズムの実装を試みている。その進行状況の詳細については、「現在までの達成度」欄に記載する。この解法において必要な計算量の大まかなオーダーについては、すでに理論的に見積もられており、偏微分方程式でも常微分方程式と同様に、要求する有効数字の桁数の冪オーダーであることが判明しているが、その冪の次数が座標変数の個数が増えるにつれて高くなると見積もられている。これを実際の数値実験で確かめる必要がある。 このアプローチと並行して、この解法の構造を利用して、線型微分作用素の固有値を、線形補間の反復により、非常に高い確度で求める方法も提案し、すでに多くの数値例で成功を収めている。この方法は、さらに変数変換や各種の変形により、周期ポテンシャルを持つシュレーディンガー方程式の固有値のバンド構造の分析や、無理関数や指数関数を係数関数に含む場合への拡張にも成功している。これらの方法を偏微分作用素の固有値問題にも適用する試みも可能である。 これらの方法の一つの大きな特徴として、整数の加減乗除の四則演算のみを用いて、ごく普通のパソコン程度で有効数字数百桁の確度で解や固有値が求まることが挙げられる。また、これらの手法は、単なる数値解法にとどまらず、フーリエ級数や複素関数論などの古典的な解析学や、ユークリッドの互除法や`lattice reduction'のような整数の離散数学とも密接な関係をもっており、数値数学だけでなく純粋数学的にも新しい展望につながる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、この解法の偏微分方程式への拡張を最優先で進める予定であった。この解法が偏微分方程式へ拡張可能なことは、数年前から理論的に判明している。ただし、常微分方程式の場合と異なり、「隣接範囲」が微分方程式の種類によって異なるため、 `degree'を用いた基底のラベル付けを用いなければならない。しかしながら、そのプログラムへの実装が予想に反して非常に煩雑であることに気づき始めることとなった。特に、展開係数の分母のプログラム内での記述の仕方を、常微分方程式の場合とは根本的に変えなければならないことがわかった。これらにより、プログラムの作成が当初考えていたほど短時間では完成しないことが判明した。 その間に、固有値の線形補間の自動更新に基づく新しい計算法(これだと、例えば複素固有値の高確度計算も可能になる)や非同時方程式への効率的な拡張法など、従来予定していなかった新たな発見や拡張が次々にあり、それらを部分的に優先したため、偏微分方程式への拡張が結果的に遅れることとなり、完成に至っていない。 全体として、結果的に多数の課題に良好な数値結果が出ていても並行的に整理中の段階にあり、そのままでは発表として完成できない状態であり、現在その整理と完成を急いでいる。さらに、数々の個人的事情で十分な時間が取れなくなったことも重なった。 以上のように、当初の研究計画に関してはかなり遅れているが、その代わり、当初には予想していなかった新たな発見とそれに基づく進展がいくつかあり、全体としてはやや遅れながらも順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
最優先課題は、引き続き偏微分方程式への拡張のためのプログラムの実装を急ぎ、今までの遅れをなるべく早く取り戻すことである。このためには、プログラムの実装方法に関する更なる工夫や改良が必要となる。また、偏微分方程式の場合は常微分方程式の場合に比べてはるかに大きなメモリーを必要とするので、計算量だけでなく使用するメモリーの量のオーダーにも気をつけて分析する必要がある。 偏微分方程式への拡張の簡単な例として、研究計画調書にも記載したように、2変数のシュレーディンガー方程式でポテンシャル関数が変数分離できない例(変数分離できる例だと数値的にも常微分方程式に自動的に還元されてしまうおそれがあるため、偏微分方程式の適例とは思えない)から始めたい。まずは、解析的に解ける特殊な場合について、厳密解と直接比較することにより、数値性能を直接確認することから始めたい。 これらと並行して、固有値問題の線形補間の自動反復による複素固有値の高確度計算についても、研究を進める。さらに、この整数型解法は非常に高い精度での数値積分へ応用することが可能であるので、この整数型解法を利用した数値積分法についても研究する価値がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
すでに「現在までの達成度」欄に記入したように、研究の進行が当初の計画より遅れているために、論文や学会・研究集会における発表ができず、このため、旅費や学術論文掲載料が不要となり、また、物品の購入も当初の計画と比較するとかなり小規模にとどまっている。 今後の研究の発展に伴って、平成27年度で非常に多くの研究経費が必要となることが見込まれるので、平成26年度の使用はなるべく控えめにし、その分を平成27年度で集中的に使用することにしたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に計画通り完成できなかった研究活動を加速して推進する上で平成26年度よりも集中的に使用する。具体的には、偏微分方程式の整数型アルゴリズムの実装のためのパソコンやメモリの購入、学会や研究会での発表のための旅費、研究打ち合わせのための旅費、数値計算の補助のための学生アルバイトへの謝金、学術論文掲載料などである。
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