研究課題/領域番号 |
25610008
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
西山 享 青山学院大学, 理工学部, 教授 (70183085)
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研究分担者 |
岩尾 慎介 青山学院大学, 理工学部, 助教 (70634989)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | トロピカル幾何学 / 離散可積分系 / トロピカル曲線 / 超離散ソリトン方程式 / 戸田格子 / グラスマン多様体 / 非負行列 / プリュッカー座標 |
研究実績の概要 |
2014年度は,トロピカルセミナーを計18回開催したが,この年度はおもに少数の研究者で,実質的な討議・討論・理解を深めるためのサーベイなどに費やした.特に,前半は分担者の岩尾慎介助教による「離散可積分系とトロピカル代数曲線 I, II, III」のサーベイが共通理解に非常に役立った. 岩尾氏のサーベイにより,非周期的な戸田格子の Lax 型の微分方程式の表示から,系のスペクトルを得て,それを用いてグラスマン多様体上の時間発展を記述する方法の有用性が確認できた.周期的な場合には,スペクトルは曲線として現れ,連続的な場合にはそれは複素リーマン面である.これを離散化・超離散化することにより,リーマン面の周期積分のトロピカル化ができることが岩尾氏の研究から明らかになっている.このようにして,リーマン面の直線束のトロピカル化を模索しているが,この方向では,小川竜氏に依頼して,トロピカル・セミナーにおいてトポロジカルな線束の解説や,線束の定義方程式のトロピカル化などを模索するなど,様々なアプローチを試している. 以上は,連続または離散戸田格子の話であったが,われわれの研究では,これをトロピカル化する(つまり超離散化する)ことが必要であり,年度の後半では超離散化のために,非負行列(すべての小行列式が非負であるような行列)の理論を研究することを主眼とした.解の時間発展の超離散化は,ある種の小行列式の正値性に帰着し,これはグラスマン多様体のプリュッカー座標の正値性と解釈される.2014年の12月から,2015年の3月にかけてこのプリュッカー正値性に関するセミナーを集中的に行い,多くの中間的な結果が得られたが,まだ完全な正値性の証明に至っていない.2015年度はこの正値性の証明に向けて様々なアプローチを試みる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
少人数のセミナーを数多く開催することで研究の遅れを取り戻すことができた.とくに岩尾氏による戸田格子の理論周辺の解説は非常に役に立っており,現在セミナー・ノートを作成中である.また,Pinkus による,一見トロピカル幾何学とはつながりのない非負行列の理論を発見したことも大きな進展につながった.2015年に入ってからはコンピュータの数式処理システム MAXIMA を利用した数値実験も数多く実行しており,これで研究の方針がおおよそ固まったといえる.とはいえ,まだ理論的には多くの問題が山積しており,研究のまとめができるような段階にはない.
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今後の研究の推進方策 |
現在,集中的にセミナーを行っている,戸田格子の Lax 表示に由来するグラスマン多様体のプリュッカー座標の正値性の証明を追求する.コンピュータによる数式処理の実験や,一般にはよく知られていないような,行列式の正値性の性質などを総動員して証明を行う.これが成功すると,戸田格子の解曲線を仲介役として,グラスマン多様体そのもののトロピカル化も視野に入ることになる.
現在知られているトロピカル・グラスマン多様体は,トロピカル線形空間,トロピカル直線,トロピカル平面などのモジュライ空間としての通常の幾何学的な対象であるが,われわれの理論から得られるトロピカル・グラスマン多様体との関係も興味深いものになるだろう.一方,超離散戸田格子の研究に対して,得られた結果の還元もあると考えられる.これについては,トロピカル・セミナーにおいて,長井秀友氏による行列式表示の正値性などの結果を解説してもらい,われわれの結果・目標と比較することを考えている.
具体的な研究計画としては,2014年度と同様に定期的な少人数のセミナーと討論を行う一方,グラスマン多様体,旗多様体,超離散可積分系の専門家を招聘して,講演会や小研究会を開く.特にグラスマン多様体上のシューベルト解析との関係から,池田岳・成瀬弘の両氏,および,工程計画法への応用の観点から,小林正典氏・小田切真輔氏との連絡を密にしたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
トロピカル・セミナーが少人数かつ,実効的なメンバーに固定されていたため,セミナーの回数は多かったにもかかわらず,旅費などの支出が少なかった.また,海外の研究者との連絡に手間取ったために当該年度に招聘できなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は最終年度であるため,研究の総まとめとしての研究会・海外からのトロピカル・セミナーへの招聘者などを予定している.また,研究成果の発表のため,国外旅費などに支出する.
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