研究課題/領域番号 |
25610018
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
竹田 雅好 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30179650)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 対称マルコフ過程 / 準定常分布 |
研究実績の概要 |
保存的な対称マルコフ過程に緊密性なる性質を与えると、非常に強いエルゴード性、すなわちコンパクト集合の補集合からの脱出時刻が指数可積分性を持つことが示せる。この事実を用いて、初期値に関する一様なドンスカー・ヴァラダーン型大偏差原理が示せる。また、半群がコンパクト作用素になり、対応する全ての固有関数が有界連続となることが分かった。以上の性質はオールンシュタイン・ウーレンベック過程では成り立たない性質であり、一次元拡散過程であれば境界がフェラーの意味で流入である場合に示せる事実である。コンパクトでない状態空間空間上のマルコフ過程に対しても、この様な一様評価の成立する場合があることが分かり、その十分条件を与えたことになる。今年度は、以上の結果を具体的なマルコフ過程に応用し、コンパクト性の確認を行った。特に、ランダムな時間変更を定義するスムーズ測度がグリーン緊密であれば、時間変更過程の生成するマルコフ半群はコンパクトであることが分かった。対称安定過程の場合、あるクラスのスムーズ測度に対してはグリーン緊密性がコンパクトであるための必要十分条件となることが示せた。シュレディンガー作用素がコンパクトなレゾルベントを持つために必要なポテンシャルに対する条件も、われわれの立場から確率論的に与えることができた。飛躍のあるマルコフ作用素を主要部に持つシュレディンガー作用素についてもわれわれの方法でコンパクト性が示せることを確認し、特に、対称安定過程の生成作用素の場合には、必要十分条件を与えていることが分かった。現在、準定常分布の構成に応用することを考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
緊密性から対応する半群のコンパクト性が導けたことは、予想外の結果であった。通常、コンパクト性は、レーリッヒの定理など関数空間のL2空間への埋め込みのコンパクト性を持ちいてなされる。我々は、マルコフ過程のレゾルベントの緊密性という一般性のある十分条件を用いてなされる。実際、測度に関するランダムな時間変更により定義されるマルコフ過程のコンパクト性を、測度のグリーン緊密性から与えることができた。この結果は基底の存在を導き、準定常分布の構成に応用できる。半群がコンパクト作用素から固有関数を考えることができるが、緊密性の仮定の下、対応するすべての固有関数が有界連続となることも分かった。従来、固有関数の有界性は、半群の超縮小性などの関数解析的手法を用いてなされてきた。ここでは、ジュレディンガー作用素のグリーン関数に関する最大値原理の応用として導かれる。マルコフ過程のグリーン関数に関する最大値原理は古くから知られているが、我々の場合には測度の台上での最大値にゲージ関数をかけた形で証明できる。従って、ゲージ関数の有界性に関する結果がなければ、有効な道具にはならない。申請者は、以前からゲージ関数の有界性について、その必要十分条件を時間変更過程の最小固有値を用いて与えている。すべての固有関数が有界連続性証明は、これまでの研究成果と結びついた結果であり、単独の事実としても興味深いと考えている。また、多次元の拡散過程の準定常分布の存在・一意性の証明にも適用できる点で、一般性のある方法だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果で、基底の有界連続性が対称マルコフ過程の緊密性から従うことが分かった。準定常分布の一意性については、ほとんど一般的な事実は知られていない。私の指導学生である三浦佑介によって、マルコフ半群の超縮小を用いて示された結果が、多次元の場合の唯一の結果と言っても過言ではない。基底の有界連続性を使って一般化できないか考察する。準定常分布の一意性については、一次元拡散過程の場合に半群の超縮小を富崎松代による判定条件を使って三浦により示された。これが一次元拡散過程の場合の最も一般的な一意性の条件になっている。多次元対称拡散過程の場合に検証していく。同時に、対称マルコフ過程のエルゴード性についての整理をする。リュービル性の判定など関連する話題と密接に関係する。凸部分集合の半群による不変性とも関連する。これらの仕事に関しては、重川(京都大学)、梶野(神戸大学)が詳しい。彼らとの研究連絡を密にとる。確率空間ではなく、シグマ有限な測度空間上のマルチンゲールや可逆マルチンゲールの理論が大きな役割を果たすものと考えられる。これらの理論は、実解析として深く研究されており、その資料収集に努める。我々の方法は、消滅を許すマルコフ過程の場合にも応用可能で、その場合への拡張を目指す。半群のコンパクト性やその固有関数の有界連続性に関する結果については、研究発表してきたが、その準定常分布への応用について、ビーレフェルト(ドイツ)大で開催予定の確率過程の国際研究集会で講演を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究がうまくいってため、論文作成に集中し、当初予定していた国内研究集会への出席、海外出張による研究発表ができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、ドイツで開催予定の確率過程に関する研究集会に出席し、準定常分布の存在と一意性に関する講演を行う。対称半群のコンパクト性に関しては、確率論のみならず実解析、偏微分方程式論分野にとっても、古典的な問題として興味を持たれている。関連セミナー・研究集会に参加し講演する。準定常分布の一意性には、半群の超縮小性が用いられる。対数ソボレフ不等式など関数不等式を扱った解析関連図書を購入する。
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