研究課題/領域番号 |
25610028
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
坂上 貴之 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10303603)
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研究分担者 |
齊木 吉隆 一橋大学, 商学研究科, 准教授 (20433740)
中野 直人 東北大学, 学内共同利用施設等, 助教 (30612642)
稲津 將 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80422450)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 確率微分方程式 / Conley-Morse分解 / 時系列データ解析 / 対流圏 / 成層圏 / データ同化 |
研究概要 |
気象学ー数学連携ユニット(MaeT)の活動を基本として,観測データを用いた長期気象現象の数理モデルの構築に向けた研究を推進した.実績の概要は以下の通り. (1)北半球冬期対流圏における気象現象:気象データの主成分分析に基づいた確率微分方程式に対して,従来の主要二成分による数理モデルを精密化すべく,より多くの主成分を用いた確率微分方程式モデルの構築を試みた.これに伴って生じるデータ量の不足を補う1000年分の数値データの再構成や方程式に現れる係数の導出公式の改良などを行った.加えて,時系列データにConley-Morse分解を適用することで,その力学系としての構造に勾配流的な要素があるかどうかを確かめた. (2)北半球成層圏における突然昇温現象:まずは本現象に関する最近の研究動向などを把握するために活発な議論を行った.その過程で本現象は確率的な部分と力学的な部分が同程度含まれていることが明らかになった.また,本成果の一部は論文誌への投稿に到っている.(1,2)は稲津・中野が中心になって行った. (3)ビッグデータ同化の数理:理化学研究所三好と坂上の間で研究連携を開始し,「気象学におけるビッグデータ同化の数理」なる国際研究集会(統計数理研究所「数学協働プログラム」との共催)を実施した.局所的な豪雨などの時間空間スケールが小さい現象の予測につながるデータ同化手法の実現のための数学的手法の議論を行った.また,力学系の双曲性が破綻するための構造として知られる「安定多様体と不安定多様体の接触(tangency)」により,気象数理モデルのロバストさやその数値軌道の信頼性が保証されなくなる可能性を考え,本年度において斉木はこのtangencyを力学系の不安定周期軌道を用いて詳細に調べ,成果は論文として掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画に従ってそれぞれの分野における研究が進展し,成果の一部は既に投稿論文となっている.加えて,気象学におけるビッグデータ同化のための数理的展開といった,当初の計画では想定されていなかった研究テーマでの展開が見られるなど当初の計画以上に進展していると判断している.本研究活動に参加する数学・気象学の研究者の数も増加しており,ますますの成果が期待できる.各テーマごとの達成度は以下の通り. (1)北半球対流圏の気象現象:より高次元の相空間における確率微分方程式予報モデルの構築に際し,必要となる不足データの標準実験を行っている.また,この確率微分方程式モデルによる時系列データ解析手法の精密化を試み,その係数決定公式の改良ができた.本テーマについては計画通り順調に成果を積み重ねているところである. (2)北半球成層圏における突然昇温現象:当初の計画通りに本現象の気象学における事実とその記述について理解を深める過程で,低次元系における成層圏変動の季節内変動に新しい特徴を見い出し,それを記述するスプレッドの時間発展方程式を導くことができた.また,その現象の解析のため,予測スプレッドの満たす時間発展方程式を導出した.本テーマについては平成26年度の研究計画を先取りして成果に到っている. (3)気象学におけるビッグデータ同化:理化学研究所の三好チームリーダとの連携が進み,3月には研究集会を開催し,短時間・局所的な気象現象の予測をデータ同化の手法で取り扱う際に必要となる数学的手法などについての詳細な検討が行われた.また成果として論文となった斉木の研究によって,気象予報の精度が落ちる状況がこの種の構造に由来するか否かを検討することが可能なり,数学の基礎付けの側面でも予定以上の成果を得た.
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今後の研究の推進方策 |
北半球対流圏の気象現象の数理モデル構築は一定の成果を得たため,そこで確立した手法を用いて,北半球成層圏の突然昇温現象の数理モデルの構築とその精密化に本格的に着手する.まず,成層圏変動の主成分で張られた低次元相空間におけるスプレッドの時間発展方程式の近似解が,成層圏突然昇温の季節予測可能性とどのような関係にあるかを調査する.さらに,Conley-Morse 分解による解析を通して,その定性的な力学構造の記述を与える.また,大気大循環モデルにより1000年にわたる標準実験を実施し,その主成分で張った低次元位相空間におけるスプレッドの時間発展特性を調査する.また,25年度に改良を検討した確率微分方程式モデルにおける方程式の適切な係数決定公式を提案する.また,冬期対流圏の気象に対する数理モデルの構築において確立した手法を用いて,冬期成層圏の突然昇温の数理モデル構築に着手する.精緻化した確率微分方程式モデル手法を成層圏変動の時系列データに応用し,その予測スプレッドがどう変動するかを実際の気象データとの比較を通じて調べる.これは成層圏変動に対するConley-Morse 分解による力学構造の抽出と合わせて検討する. 次に気象学におけるビッグデータ同化の数理的展開については,前年度の成果として示唆された「1.巨大な観測データの効率的なデータ解析手法」および「2.観測データの高速・高効率的抽出手法」の数理的展開について検討を開始する.データ解析技術としてのパーシステントホモロジーや高速アルゴリズムの開発などがその候補となる.一方,理論面ではデータ同化とカオス同期の対応について,カオス同期の背後に存在が予想されている「不安定方向が異なる状態の共存 (heterodimensional cycle)」なる別の構造を用いて,データ同化を非双曲力学系の一つとして解釈することを目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
本経費が共催をした研究集会「気象学におけるビッグデータ同化」の数理の研究討論者の旅費について,理化学研究所三好チームリーダのクレストおよび統計数理科学研究所の数学協働プログラムからの資金的援助もあり当初の予定よりも少なめの支出となった.本研究集会の開催は3月であったため,最終的な支出額が決定した時点で年度末となってしまい繰越することとなった. 「気象学におけるビッグデータ同化」研究集会の成果として,いくつかの新しい研究展開が示唆されており,当初計画を超える成果と新しい方向性が見えたので,これに伴う新しい事業,具体的には理化学研究所との定期的な研究セミナーの開催などの旅費として,差額は有効利用する予定である.
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