研究課題/領域番号 |
25610029
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長山 雅晴 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (20314289)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 反応拡散系 / スポット運動 / 分岐数値計算 / 液滴運動モデル / 計算機援用解析 |
研究概要 |
液滴運動を記述する数理モデルを構築するためには,少なくとも液滴を表現するモデルと水面あるはガラス表面等の液滴が運動する拡散場のモデルを記述する必要があり,液滴を表現するモデルの一つとして体積保存型反応拡散系が挙げられる.これは反応拡散系が持つスポット解の性質を利用した液滴の表現方法であり,スポット解とは空間2次元反応拡散系に現れる孤立したパルス進行解のことを指している.これまでに知られているスポット運動は体積をコントロールすることが困難であり,体積コントロール可能な反応拡散系モデルを構築する必要があった.本年度は,液滴の体積に依存した運動を表現することが可能な体積保存条件付きの双安定反応拡散系に対して,液滴の体積に依存したスポット運動について数値計算によって詳しく調べた.その結果,拡散場の方程式との結合関数を変化させることで,様々な形をもつ並進運動解(三角形解,三日月解等)が出現することがわかった.また,これらのスポット解はパラメータを変化させることによって,脈動解,自励往復解,方向転換並進解,公転運動,自転運動に変化することを明らかにした.従って,我々の目指す液滴運動の表現数理モデルとして本モデルは有望なモデルであると期待できる.次に,これらのダイナミクスを理解するための手段として,縮約方程式の導出を考えた.縮約方程式の導出にはスポット解の解構造(特に,多重分岐点の存在)を調べる必要があり,そのために,空間1次元の場合における解構造を計算するために分岐計算ソフトの制作を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体積保存条件付き双安定反応拡散系と拡散場を結合した数理モデルに対して,結合関数の関数形に依存した形状の並進スポット運動(三角形,三日月形)を作ることができたこと,およびそれらの並進スポット解が不安定化した結果として,脈動解,自励往復解,方向転換並進解,公転運動,自転運動が出現したことは今後の液滴運動の表現モデルとして体積保存条件付き双安定反応拡散系を用いることが有益であることを示唆できた点では計画以上に進展している.本数理モデルではスポット解の分裂現象を扱うことが困難であることが判明し,細胞運動を記述する数理モデルを構築するためにはさらなる改良を必要とすることがわかった.また,空間2次元の体積保存条件付き双安定反応拡散系の解構造を計算機援用解析のもとで示す計画は,これまで用いてきた分岐構造計算ソフトウエアの拡張が予想以上に困難を極めているためやや遅れている段階である.連携研究者らとの研究打合せでは,縮約方程式を導出し,その解析を行うことが有効であることを確認した.この点では初年度として概ね順調に推移していると考えられる.また,ある体積保存条件付き反応拡散系から特異極限を導出し,拡散場の方程式との結合関数を適切に与えると表面張力を駆動力とした粒子の運動方程式を導出することが可能であることがわかった.さらに,この系に現れる回転運動解の解析については,周期境界条件下での回転解の存在とその安定性については計算機援用解析のもとで示すことが出来ており,概ね順調に進んでいる
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,連携研究者と共に体積保存条件付き双安定反応拡散系に対する特異摂動による特異極限方程式を導出する.このとき体積保存条件が特異極限方程式にどのような形で導入されるのかを明らかにする.次にこの特異極限方程式に対する定常解の安定性解析を行い,実部正の固有値に対する固有関数の形状を調べることで,並進スポット解の形状を明らかにする.また,並進スポット解の不安定化から現れる解のダイナミクスを調べるために,中心多様体縮約を用いた縮約方程式を導出する.そのためには分岐点の余次元を調べる必要があり,分岐計算ソフトウエアの開発を行う.分岐計算ソフトの開発では、研究計画からやや遅れていおり,次年度は分岐ソフトウエア開発を行う研究補助者を雇用し,空間2次元での双安定反応拡散系に対する分岐構造計算を行う.これにより縮約方程式の導出に対する計算機援用による保証を与え,縮約方程式の係数を数値的に与える.そして縮約方程式の計算機援用解析から,並進スポット解の形状による安定性や並進スポット解からの分岐現象として,脈動解や自励振動解の出現機構を明らかにする.最後に,分裂現象を取り扱うことが出来る反応拡散系モデルの構築を行い,上記で開発した分岐計算ソフトウエアを用いて,分裂現象の数理的機構を明らかにする
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は連携研究者2名との研究打ち合わせを4度行う予定であったが,連携研究者2名とそろって打ち合わせをすることが1度しかできなかった.また,分岐計算ソフトの開発が遅れたため,分岐計算ソフトを使った計算支援の研究補助費用に交付金を使うことができなかった. 次年度は,3名そろって研究打ち合わせをするのではなく、個別に打ち合わせを行うことで研究を加速する.そのための研究打ち合わせ旅費として使用する.また,分岐計算ソフト開発を加速するために2次元分岐計算ソフトの開発支援の研究補助費として使用する.
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