化学反応を伴う液滴運動を記述する数理モデルを構築するための基盤として,体積保存性を持つフェーズフィールド方程式と線形反応拡散方程式の結合した2変数反応拡散系を構築し,数値計算によってこの系に現れるパターンダイナミクスについて計算機援用解析を行った.この数理モデルでは,あるパラメータを変化させることで安定な定常スポット解からDrift分岐によって不安定化し,この分岐点から並進運動する進行スポット解が分岐することが示唆された.同様の結果は1994年にある反応拡散系に現れることが知られていたことであるが,我々の系においては,パラメータをさらに変化させると,進行スポット解がHopf分岐を起こすことがわかり,そのHopf分岐点から振動進行スポットが出現することもわかった.また,この系では自励往復運動するスポット解(自励往復運動スポット)も出現することが明らかになった.この運動の発生機構を詳しく調べた結果,自励往復運動スポットは,パラメータ変化によって振動進行スポットの振動が次第に大きくなり,その影響から進行方向が反転することによって出現することが明らかになった.さらに,左右往復の課程で振動回数が異なる非常に非対称性の高い自励往復スポットも発見され,このほかにも公転運動も見られることから,この系は多彩なスポット運動解を持っていることがわかった.これらの解の出現機構を分岐現象として捕らえる第一歩として定常解の構造を調べた結果,安定な楕円形状定常解や安定なピーナッツ形状定常解が存在することが明らかになった.このような円形から変形した定常解が安定に存在する反応拡散系はほとんど知られておらず,これまでにない反応拡散系を発見することができた.定常解の構造ですら非常に複雑であることが示唆されたため,この系の数理解析は今後の課題となっている.
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