研究課題
本研究課題は、波長1.6GHz水酸基(OH)メーザーを指標として天の川銀河の構造把握をすべく、OHメーザー源の広域深探査を行い、同時に、低周波数電波バンドにおける年周視差計測手法の確立を目指すものである。本年度では、Parkes 口径64m電波望遠鏡を用いた天の川銀河面OH放射源掃天探査が、当初予定していた視野の探査を終えた。現在そのデータの処理・分析中であるが、その1/3の天域についてOHメーザー源の分布が明きからになってきった。その結果、銀河面垂直方向の分布スケール高が400 pc程度(厚い銀河円盤よりもやや薄い)あることが分かった。これは、OHメーザー源が銀河円盤中央面から比較的近いが星形成領域よりは広い範囲に分布すると期待される、比較的重い進化末期星に付随していることと矛盾しない。また、このようなOHメーザー源が天の川銀河の中には約5000個程度あることが推測される。一方、米国VLBAを使った星周OHメーザー源の試験的測量に取りかかり、初期結果の段階で200マイクロ秒角の年周視差計測に成功した。小離角における高精度位置計測の条件が整えばOHメーザー源の年周視差計測が可能であることを示しただけでなく、データ校正上の未解決問題も明らかになり、さらなる精度向上の見通しを得た。このように、将来天の川銀河の立体構造・力学構造を把握する上で新たな位置の指標として充分な数のOHメーザー源があり、またこれらkpcスケールの遠方まで分布するメーザー源の距離を年周視差法で直接測定できることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初の予想よりも進行した部分(OHメーザー源に対する200マイクロ秒角の年周視差の検出)、遅れてしまった部分(OHメーザー源高精度位置計測についてのシミュレーションが、担当して大学院生の退学により止まってしまった)、ほぼ予定通りの進んだ部分(OHメーザー源掃天観測データの分析によるメーザー源分布の性質の把握)を総合して「おおむね順調に進展している」とした。ASKAP(Australian SKA Pathfinder)を用いた高感度・広域OHメーザー源探査(Galactic ASKAP Spectral Line Survey=GASKAP)の開始は2015年度後半が見込まれる。
Parkes望遠鏡で得られたデータの分析を完了し、査読論文としてまとめる。また、OHメーザー源に対する年周視差計測についても2-3天体分の計測結果について査読論文にまとめる。これを元にGASKAPの掃天観測計画の実施案をまとめる。年周視差の精度とサンプルOHメーザー源の数を増やすために、VLBAやEVN、LBAに追加観測を提案する。一方天体位置計測シミュレーションについては、担当できる学生の養成まで後退せざるを得ないが、その代わりに上記2つの課題の推進に集中する。
想定していた論文掲載料の支出がなかった。当初予定していた以外の重要な国際会議に出席した。
既に受理された論文の掲載料として使用する。
日本SKAコンソーシアムURL: http://ska-jp.org
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
Astrophysical Journal
巻: in press ページ: in press
巻: 787 ページ: 54-1, 54-9
10.1088/0004-637X/787/1/54
Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 66 ページ: 106-1, 106-16
10.1093/pasj/psu110