研究概要 |
福島第一原子力発電所事故では大量の放射性物質が環境中に放出し、汚染水の漏洩の形で現在も放出が続いている。事故当初は131Iによる被爆が、現在は137Csと134Csからのγ線による外部被爆が問題となっているが、今後は海産物中の90Srからの内部被爆が問題となるかもしれない。90Srはγ線を放出しないため通常のサーベイメーターなどでは測定できない。JIS規格の計測法では標準1ヶ月必要で、事故現場での復旧作業の安全確保のための汚染濃度測定や現在自粛が続いている福島県沖漁業の再開に不可欠な食品中の汚染検査には使えない。本研究では1.2MeV以下のβ線やγ線には感度がなく1.2MeV以上のβ線のみに感度がある放射線計数装置として、屈折率1.048のシリカエアロゲル、直径0.2mmの波長変換ファイバーのシート、小型高性能の光電子増倍管を用いたしきい値型チェレンコフカウンターを開発した。 本研究で製作した検出器は有効面積が10cm×30cmで、90Srの感度が0.12%、137Csに対する感度が0.00013%、雑音頻度が0.012Hzであった。この検出器で一様な汚染のある表面汚染濃度の測定下限は、137Csが90Srの100倍の濃度で存在するような過酷な環境でも、わずか1分間の計測時間で0,1Bq/平方cmである。またこの検出器は大面積化が容易な構造をしており、もし1平方m程度のものを製作すれば、食品や排水中の90Sr検出下限は、137Cs濃度が90Srの10倍の環境で、10分程度の計測時間で10Bq/㍑が推定できる。さらに宇宙線μ粒子事象を除去するためのシンチレーションカウンターを加えたり、試料をあらかじめ100℃以上に加熱して計測の邪魔になる水分を除去するなどの対策を加えれば、測定下限0.1Bq/㍑にも到達できる可能性がある。
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