研究課題/領域番号 |
25610050
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 直紀 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90377961)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ボルツマン方程式 / 宇宙の構造形成 |
研究実績の概要 |
これまでに開発した6次元ブラソフソルバーに5次精度差分法MP5スキームを実装し、はじめに固定直交座標でのテスト計算を行った。ランダウ減衰や二流不安定性などの標準的なテスト問題を解くことで計算精度をたしかめ、また局所誤差および大局誤差のスケーリングをたしかめた。局所誤差は空間差分の精度で決まる一方で、大局誤差は時間積分の精度に支配されるため、厳密にメッシュ幅の5次ではスケーリングしない。今後は時間積分スキームの最適化をすすめる。今年度はコード最適化もすすめ、特に移流方程式を解く際のメモリ空間上でのデータ探索および処理を考慮し、 AVXディレクティブ を用いたコードを開発した。これにより数倍の高速化を達成できた。6次元ブラゾフ方程式は基本的に移流方程式を順次解くことで発展させることができるため、全般にベクトル化および並列化には適しており、現コードも超並列計算機上で高効率で使用できる。 次に、同ソルバー同スキームを共動座標系に拡張し、試験的にではあるが宇宙論的シミュレーションを遂行することができた。昨年度まで採用していた Positive Flux Conservation 法では、線形揺らぎの成長が正しく追えず、振幅増幅率が速度空間でのメッシュ幅に依存するという難点があった。新たに開発したコードでは、局所誤差が抑えられるために、既存の大型計算機で可能なメッシュ数でも線形成長を高精度で追うことができる。ここまでの成果を国内外の学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高精度差分スキームを実装することで、揺らぎの線形成長の計算精度も向上し、昨年度から持ち越した計算精度に関する問題は解決された。1次元無衝突系の基本問題については振動減衰率や位相空間構造を詳細に確かめ、一般の3次元問題へ適用できると判断した。宇宙論的シミュレーションを行う準備も整い、現在は、時間刻み幅や初期条件生成時の宇宙年齢など、詳細なシミュレーションパラメータを精査する段階にある。速度分布関数の統計や密度揺らぎのパワースペクトルを測定するなどのための解析コードはすでに準備してあり、大規模計算へと進む条件が整った。論文としての成果発表は当初予定よりも遅れているが、計算結果や各種技術は国内外の研究会で報告している。
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今後の研究の推進方策 |
はじめに冷たいダークマターのみの単一成分シミュレーションを共動座標系で遂行する。密度ゆらぎのパワースペクトルや速度の一点分布関数などを用いて、従来のN体法で行った計算との詳細な比較を行う。位相空間上で線形揺らぎに対応する分布関数がどのように発展するかを詳細に解析し、空間差分精度が揺らぎの成長におよぼす影響を明らかにする。次に、熱速度をもつニュートリノ成分を含めたハイブリッドシミュレーションを行い、小スケール密度揺らぎの成長阻害率を求める。2年後を目処に、ニュートリノ質量を変えたシミュレーションを多数行い、銀河サーベイや重力レンズサーベイとの比較に使用できる理論テンプレートを構築する。また、プラズマ現象を含めた無衝突系の進化について、6次元Vlasov方程式による新たな観点から研究をすすめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
計算コード開発、特に高次差分スキームの実装に当初想定より時間がかかった。宇宙論シミュレーションを実行できれば大規模プロダクトランを行い出力を格納するファイルサーバーを購入予定であったが、コード開発の遅延に伴って、全体に経費執行予定が半年ほど遅れる結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
年度末までに高次差分スキームの実装は完了したため、計算精度や誤差を確かめるテスト計算を直ちに行い、大規模宇宙論的シミュレーションを実行する。このデータを格納するためのハードディスクと解析用PCを購入する。また、大規模計算の結果を計算物理学および宇宙論の研究会で発表する。
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