研究課題/領域番号 |
25610058
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
田中 和廣 順天堂大学, 医学部, 准教授 (70263671)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | QCD / 光子・光子衝突 / エクスクルーシヴ / 光円錐波動関数 / QCD因子化 / ベクトル中間子生成 / グルーオン / QCD和則 |
研究実績の概要 |
高エネルギー光子・光子衝突における縦偏極と横偏極の中性ベクトル中間子のエクスクルーシヴな生成で散乱角が小さいときは、tチャネルでグルーオン2個を交換して各光子がベクトル中間子に遷移するプロセスが支配的となるので、各光子のベクトル中間子への遷移振幅(インパクト・ファクター)を用いて表せる。インパクト・ファクターを、光子から発生した仮想クォーク・反クォーク(q-反q)ペアが2個のtチャネル・グルーオンと結合する摂動QCD振幅と、長距離効果であるベクトル中間子光円錐波動関数との畳み込みとして求めると、縦および横偏極ベクトル中間子への遷移はそれぞれツイスト2および3の量となり、ツイスト3インパクト・ファクターでは仮想q-反qペアの縦運動量割合がゼロになる寄与で畳み込み積分が発散する。この赤外発散を回避するため、バーチャリティQの仮想光子のインパクト・ファクターを新しく導入して、実光子と仮想光子の衝突での縦偏極と横偏極の中性ベクトル中間子のエクスクルーシヴな生成の断面積の計算を進めてきたが、この方法では計算結果の適用範囲が狭く限定されてしまう難点が生じた。本年度後半は、光円錐QCD和則の手法を応用し、分散公式とクォーク-ハドロン・デュアリティに基づいて割り出したQ依存性を用いて、大きなバーチャリティQをもつ仮想光子の場合の計算結果から実光子Q=0でのツイスト3インパクト・ファクターを外挿して求める新しい方法の定式化を行い、適用範囲を狭めずに赤外発散の困難を回避できる見通しを得ることができた。モデルケースとして、高エネルギーπ中間子・核子衝突における核子およびレプトン対のエクスクルーシヴな生成で散乱角が小さい場合も考察し、従来は評価が困難であった、QCD因子化不可能なソフトなメカニズムが、光円錐QCD和則の手法を応用して計算でき定量的に重要となることを示し、国内外の研究集会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
赤外発散がツイスト3インパクト・ファクターの計算結果に現れるという、当初予期していなかった困難が生じ、この赤外発散を回避するための新たなハードスケールとして光子のバーチャリティを持ち込むことを考え、インパクト・ファクターの計算をバーチャリティQの仮想光子の場合に拡張する方針転換をしたため、前年度から研究の進行が遅れ気味であった。しかし、この方法をもってしても計算結果の適用範囲が狭く限定されてしまう難点が残っていたため、バーチャリティQをもつ仮想光子の場合の計算結果から、実光子Q=0でのツイスト3インパクト・ファクターを外挿して求め難点を解決することを考え、外挿の具体的手続きに光円錐QCD和則の手法を応用することを着想した。これにより、適用範囲を狭めずに赤外発散の困難を回避することが可能になる。このように、光円錐QCD和則の手法を応用する新しい方法の開発へと、本年度後半に再度の方針転換を行ったためさらなる遅延が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
大きなバーチャリティQをもつ仮想光子の場合の計算結果はすでに得ているので、これをQ=0に外挿して、実光子のツイスト3インパクト・ファクターを求める。光円錐QCD和則の手法を応用して信頼のおける外挿を行う新しい方法も定式化してあり、モデルケースへの適用もすでに成功している。また、同じ方法をツイスト2インパクト・ファクターにも適用する。ツイスト2インパクト・ファクターには赤外発散の困難は無いが、光円錐QCD和則の手法を応用して新しく計算し直し以前の結果と比較することで、従来のQCD因子化による計算では考慮されていなかった、ソフトなQCDメカニズムの定量的な役割も明らかにする。ベクトル中間子光円錐波動関数におけるクォーク-反クォーク-グルーオンの3体相関効果は、インパクト・ファクターへのツイスト3の寄与を付加するので、光円錐QCD和則の手法を応用した新しい定式化で計算を完了する。以上でツイスト2とツイスト3のインパクト・ファクターの計算が完成するのでその結果を用いて、本課題の当初からの到達目標であった、高エネルギーの実光子と実光子の衝突での縦偏極と横偏極の中性ベクトル中間子のエクスクルーシヴな生成の断面積の定量評価を実行し、断面積の衝突エネルギー、散乱角への依存性を明らかにする。2つの縦偏極ベクトル中間子が生成される断面積も同様な方法で計算し、結果を比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
赤外発散の困難が生じない領域に限った計算を進めてきたが、適用範囲の狭い結果となる欠点があった。本年度後半に、研究計画の遅延覚悟で適用範囲を狭めずに困難を回避する手法を開発することに専念して国外出張を減らしたぶんの旅費相当分が残った。
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次年度使用額の使用計画 |
適用範囲を狭めずに困難を回避する新しい手法を開発する方針転換で、計画の遅延が生じたため、研究期間を延長してこの新手法にて改めて研究計画を完了することとし、未使用額はそのための研究資金とする。主に、5月にフロリダ(アメリカ)で開催の国際学会かあるいは9月にイリノイ(アメリカ)で開催の国際学会での成果発表の旅費とする予定。
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