本研究では、電子-電子相互作用による非平衡電子の緩和過程を利用して半導体基板中で電流を増幅する”電子増倍素子”を開発することを目的とした。前年度に、電子増倍素子を2経路干渉計に埋め込むための試料作成技術の開発とセットアップを終了したことを踏まえ、本年度は異なる長さの電子増倍素子の作成と評価を行った。増倍素子をゲート電圧で調整することにより、先行研究よりも高い9倍程度の増幅率が得られた。1桁程度の電流増幅を本研究の目標としていたので、これはほぼ達成されたと言える。また、電子-電子相互作用の物理を反映して、増倍素子の最適な長さがあること、非平衡電子の直進性を高めるためのゲート電圧によって増幅率を改善できることなどが新たな知見として得られた。高い増幅率はエミッタ電流が十分に低い場合に得られたので、2経路干渉計の低電流測定に特に適していることが確認された。しかし、時間の都合上、干渉計の出力電流の増幅には至らなかった。また、開発した電流増倍素子を用いたQPC電流の増幅も試みたが、電流を電流増倍素子のエミッタに集中させることができなかった。ただし、問題点は明らかになったので、これに関しては試料デザインの工夫によって改善する余地がある。 本研究で得られた成果については、論文投稿を予定している。
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