研究課題/領域番号 |
25610071
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
坂野 斎 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (30260566)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 非放射場 / 単一感受率 / 近接場光学 / ゲージ変換不変性 / 電荷保存則 / 誘電率 / 透磁率 |
研究概要 |
誘電率と透磁率の2つの感受率は高い対称性の系のみに有効であることが本研究課題の研究協力者によってすでに示されているが,低い対称性のナノ構造がある近接場光学系等にも依然使われている.本理論研究の目的は,物理的に正当で実用性のある誘電率・透磁率の代替として単一感受率を与えることにある.本理論では原因の時刻・場所に与える非放射場・放射場と結果の時刻・場所で生じる電荷密度・電流密度を関係づける4元感受率を考える.これにより非放射場と放射場を対等に扱えるので近接場光学で非放射場の物理を理解する足場となる.研究実施計画では25年度に1.単一感受率の定義と関数形の限定:(a) 簡単な系と(b)一般の多電子系で4元の線型・非線型単一感受率をもとめ既存理論と比較する,2. 単一感受率を現象論的に決める指導原理の探索,26年度には近接場光学への適用を行うことにした. 研究協力者との山梨大学での2回の会合を通して25年度1.の進捗は順調だった:(a)を省き直接(b)の一般論で線型・非線型の4元感受率を作用積分の電磁ポテンシャルによる汎関数微分で定義し,電荷保存則とゲージ変換不変性の成立を一般的に示した.次に4元の線型・非線型感受率の微視的表式を導出,電荷保存則とゲージ変換不変性を検証した.これまでの成果は5件の学会発表となった([研究成果]を参照).また,既存の理論との比較も行った.2に取り組む前に問題が生じ論文投稿を延期した.詳細は[現在までの達成度]に記すが,無摂動の多電子系の電子間相互作用を4元の電磁ポテンシャルに焼き直した系をつくり4元感受率を求める出発点とするが,固有状態のシリーズが両者の系で異なる事,焼き直した系では電子が自己相互作用をもってしまうことが問題である.26年度前半に問題の解決を目指し1の部分の論文投稿と2,及び26年度にするべき近接場光学への適用に取り組む予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
25年度の研究計画のうち,1.の4元感受率を定義,4元の線型・非線型感受率が電荷保存則とゲージ変換不変性に従うこと,4元感受率の微視的表式を求め既存の単一感受率との違いを見積もることまでは順調に進み,2.の現象論の構築を残している.この段階で以下に説明する問題に出合い,現在解決に向けて取り組んでいるため進捗はやや遅れていると自己評価した. 無摂動電子系の基底状態・励起状態(束縛状態)を求めるために,通常は非放射場の自由度の最適化を先行して行い電子間クーロン相互作用に書き直し物質のHamiltonianに含める.この無摂動系に放射場の摂動を与えると通常の(遠隔場)光学に相応しい単一感受率を得られる.既存のこのやり方では非放射場の働きは自動的に電子間相互作用として考慮され通常の光学には都合がよい一方,近接場光学において大切な非放射場の物理はわかり難い.これは本研究の動機の一つであった. 本研究では無摂動電子系の基底状態・励起状態(束縛状態)を摂動の出発点とするため,一端,通常の手続きで束縛状態を求めたのち,電子間相互作用を電磁ポテンシャルに焼き直し,非放射場と放射場の摂動を与え4元感受率を求める.ここで,2つの問題が生じた:ひとつは通常の手続きで求めた多電子系の束縛状態が焼き直した系の固有状態系になっていないこと,もう一つは,焼き直した系で電子は自分自身がつくった電磁ポテンシャルと自己相互作用をすることである.現在,この問題の解決に向けて取り組んでいる.方策の詳細は[今後の研究の推進方策]に記した.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」の「理由」のところで説明した,無摂動系の多電子相互作用系と4元ポテンシャルに焼き直した系の2つ問題は固有状態系が異なることと,焼き直した系で電子の自己相互作用があることである.前者は展開に使う完全系の違いとして物理的に本質的な問題にならないと現在は考えている.後者,自己相互作用は電子数が多く空間的な広がりが大きい場合には小さい可能性がある.妥当な適用限界を考え現在までの成果を論文投稿する.その後,現象論構築(25年度の2)と近接場光学系への適用(26年度の計画)を進める.また,電子の自己相互作用の排除のために,時間があれば次の方策も試したい.非放射場を先行して最適化するだけでなく,放射場も最適化して(電磁場をすべて予め最適化して,Maxwell方程式を予め解いて),非放射場と放射場の扱いを対等なものにする.この場合に定義される4元の感受率は,摂動として与えられる既知の非放射場・放射場を原因,誘導電荷密度・誘導電流密度を結果とするもので,当初の4元感受率の原因として自己無撞着な非放射場と放射場であることに比べて物理的に既知の量を原因としており,むしろわかりやすい利点がある.研究協力者と議論しながら進めたい. 現象論の構築については,Heisenberg描像で議論をすすめているので,古典論との対応,直感的な把握がしやすい.いままでにナノ構造のエッジやカスプ特有の現象論を別途構築してあるのでこの仕事を論文投稿するとともに本研究の参考とする. 近接場光学への適用については,現象論が構築されれば直接的にできるものと考えている.その際,すでに論考を始めている非放射場と放射場を原因とする電子状態遷移の違い(上記「研究実績の概要」の3番目の学会発表])に着目して非放射場の物理を明らかにし,どのような系で非放射場の影響が顕著になるかを探る.
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次年度の研究費の使用計画 |
26年度未使用額37,741円は,論文投稿が遅れているため,その英文校正の謝金として繰り越したものである.論文投稿が遅れた理由は「現在までの達成度」の「理由」のところに記した問題が生じたためである.それは, 無摂動系に対して通常の方法で求めた多電子相互作用系と本研究の4元ポテンシャルのもとでの多電子"非"相互作用系に差異がある問題である.現在,電子数が多く空間的な広がりが大きい場合にこの差異が小さいかどうか,また,「今後の研究の推進方策」に記したように放射場も先行して最適化する方法で問題を解決することを検討している. 上記「理由」に記した問題点について,妥当な適用限界の決定によって,現在までの成果を26年度前半に論文投稿する.その際にこの繰り越し分を使う.また.英文校正は論文の長さによるので1万円程度の不足分が生じる可能性がある.その際は支障のない範囲で26年度の予算を使わせていただく. 放射場も非放射場と同時に最適化する方法について発表に足る成果を得た場合は,新たな論点として別の発表とし26年度配分の予算を使う.
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