研究課題/領域番号 |
25610073
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥山 弘 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60312253)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 走査トンネル顕微鏡 / 1分子伝導 |
研究概要 |
本研究では、走査トンネル顕微鏡(STM)の探針と用いて、表面上に吸着した個々の分子の伝導度を非破壊に計測し、分子特有の伝導物性を観測することを目的としている。本年度は、Cu(110)表面に吸着したフェノキシ分子に対してSTM探針と表面間に分子架橋を作成し、伝導度を計測する実験を進めた。特に、分子環境に応じた伝導度の変化に着目した。隣に同じフェノキシ分子が存在することによって伝導度が3割減少することを見出した。伝導度の変化は距離に応じて減少し、約0.8 nm以上離れると、分子間相互作用の影響は見られなくなった。理論計算との共同研究により、隣の分子が形成する双極子場の影響で、伝導分子のHOMOが安定化し、その結果、伝導度が減少することが明らかとなった。そのほかに、一酸化炭素や酸素原子などが近傍に存在する際の伝導度を計測したところ、これらが伝導度に与える影響は小さく観測限界以下であった。 次に、分子へ官能基を導入することで分子自身の電子状態を変化させ、伝導度への影響を調査した。フェノキシ分子に対してメチル基をpara位に一つまたは二つ導入した分子に対して伝導度計測を行った。メチル基の導入によって伝導度はそれぞれ1割(メチル基ひとつ)、3割(メチル基ふたつ)増加することを見出した。メチル基は電子供与基であるのでHOMOが不安定化し、その結果、伝導度の上昇に繋がったものと解釈した。官能基の影響についてより系統的に調べるため、塩素を導入した分子に対しても伝導度計測を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環境(分子間相互作用)に応じた伝導度の変化については、系統的な観測に成功した。予想とは異なり、酸素原子が与える影響はかなり小さいことがわかった。伝導度の分子構造への依存性については、官能基を導入した分子に関して伝導度計測に成功した。一方、より長い分子の計測にはまた着手していない。
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今後の研究の推進方策 |
伝導度の環境への依存性をより詳細に調べるため、2次元アイランドの中に閉じ込めた分子に対する伝導計測を行う。フェノシキ分子は一次元列を形成するが列間に反発相互作用があるため、アイランドを形成しない。そこで、官能基に塩素を導入することで、列間に引力相互作用を生じさせ、アイランドを形成する。これにより、吸着密度に応じた伝導度変化を捉える。加えて、長い分子の伝導度計測を達成するために、フェニルフェノール分子に対する計測を行う。別チェンバーによる試行実験において吸着に成功しており、振動分光を行った結果、酸素が脱水素化してフェノキシ分子と同様の吸着構造を取っている様子が明らかとなっている。
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