分子エレクトロニクスの実現に向けて,再現性のある分子伝導測定という重要な課題が残る中,申請者は本研究申請にあたり,分子スイッチを作製し,それを自在に開閉する方法を確立して応用することを目指した.具体的には非破壊に制御可能な分子スイッチを確立し,それを応用して1分子の伝導度を精密に計測する技術を獲得する.電極と分子の接合構造が明確に規定されている点で従来の方法と全く異なっている.これにより分子の吸着位置や配向,分子間相互作用など原子レベルの見地から分子伝導を調査することが初めて可能と予想した. 計画した研究項目は①分子接合をより安定に開閉するための条件の探索, ②分子と電極が接合するアンカー部位の構造と伝導度の相関の解明, ③分子間相互作用と伝導度の相関の解明, ④分子による最小並列回路の作製と量子干渉効果の観測,の4つである.研究期間においてこれら項目について得られた結果を示す。 ①フェニル基とSTM探針の接合に加え、クロロ基とSTM探針の接合の制御に成功した。さらに電圧制御による分子スイッチの開閉にも成功した。②アンカー部位として酸素原子よりも硫黄原子の方が2倍伝導度が高いことを見出した。加えて、ベンゼン間にメチル基を導入した系において伝導度が10-20%増加することを見出した。これはベンゼン間の化学修飾によって電子状態が変調されることに起因すると結論づけた。③分子通しの静電相互作用により、分子伝導度が半分まで減少することを見出した。すなわち,電極上の分子密度によって伝導度が変化する様子を初めて捉えた。これらの現象について第一原理計算による共同研究を行った。④現在進行中の課題である。
|