本研究では微小試料のサイクロトロン共鳴信号をマイクロカンチレバーにより、高感度に検出することを開発目的する。サイクロトロン共鳴とは電磁波による異なる軌道間遷移として理解できるので、サイクロトロン共鳴に伴い試料の反磁性成分が変化する。この微小な磁化変化をカンチレバーにはたらく力の変化として検出することを本研究では試みる。微小試料でのサイクロトロン共鳴測定が可能になれば、ナノデバイスやナノマテリアルの有効質量を決定する際に有効な測定手段となる。 本研究ではまずサイクロトロン共鳴の観測に必要な磁場発生用マグネットコイル、磁場及び磁場変調用電源、サンプルホルダーの製作を行った。マグネットコイルは0.3 mm銅線を用いて内径20 mmのものを作製した。自作電源を用いて最大で2000 gaussの磁場が液体ヘリウム中でも発生できることを確認した。測定用のカンチレバーとしてはピエゾ抵抗型カンチレバーを採用した。測定系の評価を行うために第2種超伝導体κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2の磁気トルク測定を行った。測定結果からは予想されたような超伝導ヒステリシスを観測することに成功した。 測定試料として過去にサイクロトロン共鳴の報告例があるグラファイトを取り上げ、サイクロトロン共鳴信号の検出を試みた。試料重量は約1 μgであった。磁場を印加すると磁化過程に伴う信号の変化を観測することには成功したが、サイクロトロン共鳴に伴う信号を検出することができなかった。考えられる原因としては試料が金属的であることによる表皮厚さによる実効的な試料体積に減少や、キャリア密度が小さいことによる微弱な信号強度などが考えられる。そのため、サイクロトロン共鳴の信号検出には更なる高感度化が必要と考えられる。
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