本研究は、固体における光励起現象を核磁気共鳴法でその場観測するための手法の開発を目的としている。光による固体の状態変化を核磁気共鳴測定の制約下で実現するため、本手法に適したプローブや、励起光と高周波パルスの同期化技術などを開発するとともに、開発した技術を具体的な研究に応用することで、本技術を活用するための測定手法の開拓を進めた。 初年度となる平成25年度は、以前に我々が開発した伝導冷却型核磁気共鳴装置を基礎として、低温・光照射下で機能するシステムの開発を行った。ここでの重要な開発要素は、伝導冷却方式(交換ガスなし)において光照射と試料の効率的な冷却を同時に実現する試料ホルダーである。そこで、測定対象として粉末状の試料を想定し、それに適したホルダーとして円筒型と平型のホルダーを試作すると共に、アルミニウム粉末を用いて、その冷却性能の評価を行った。その結果、冷却条件下において試料内部に温度勾配が発生する可能性が示唆された。この知見から、第2年度となる平成26年度には、ターゲットを薄膜試料に絞り、サファイア製の平型ホルダーと試料のコンタクト法の工夫により安定した測定環境を構築した。さらに、同年には、光照射のための光源として、発光ダイオードなどからなる高周波変調可能な光源システムの整備を進めた。 最終年度となる平成27年度には、多様な試料に対応すべく光源波長の追加を行うとともに、光源システムから石英ファイバーと真空アダプターを介してクライオスタット内の真空槽に設置されたプローブへと導光するシステムを開発した。また、光源を核磁気共鳴分光計の出力で制御することで、励起光のタイミングと高周波パルスとの同期を可能とするシステムの開発を行った。本研究の成果は、順次学会や学術論文などで発表する予定である。
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