研究課題/領域番号 |
25610083
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
野村 一成 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80128579)
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研究分担者 |
延兼 啓純 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60550663)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | STM分光 / 有機超伝導 / FIB加工 / 超伝導ギャップ / 異方的超伝導 |
研究概要 |
有機超伝導体の発現機構を明らかにするため、超伝導ギャップの直接測定が行えるSTMを用いた角度分解トンネル分光測定において、試料にFIB加工を施し詳細な角度依存を調べる手法の開発を行なった。まず、この手法の有用性を明らかにするため、結晶軸が直交した斜方晶に属する(BEDT-TTF)2Xの系において、FIB加工を試行し、平坦な面を得る手法の確立を行なった。この結果、金属光沢を持つ側面を得ることに成功した。この面が原子レベルで平坦であるかどうかを調べるため、室温でSTM観察を行なった。この結果、低い面指数を持つ方向では、原子配列の観察に成功し、原子レベルで平坦な面がほぼ全体に広がっていることを確認した。一方で、わずかに傾いた面も存在することも明らかになった。しかしながら、面指数の高い面では、このような手法が難しいことも分った。この結果、この手法は連続的な角度依存の測定を可能とはしないものの、複数の角度方向での測定を可能にし、今後角度依存の測定に有力であることが確認できた。一方で、原子レベルで平坦な面をより高い確率で得るためには、FIB加工技術のさらなる開発も必要となると考えられる。 また、低温における超伝導ギャップの測定も、(BEDT-TTF)2Xの系で同時に進行させた。この系では、重水素置換により電子相関を強くすると、異方的d-波の超伝導の対称性がd(x2-y2)からd(xy)に変化することが予測されるが、電子相関がかなり強いと考えられるd[3,3]体においても(x2-y2)であることが、明らかになった。一方でFIB加工面で、d(xy)を示唆する結果も同時に得た。このことは、この超伝導体において、d(x2-y2)とd(xy)が混在する可能性を示すものであり、超伝導の発現機構に重要な知見を与えるものであることから、今後さらに明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶軸が直交した斜方晶に属する(BEDT-TTF)2Xの系では、FIB加工面の結晶側面の分子レベルでの平坦性がSTM観測により確認された。この結果、この手法の有用性が明らかになり、今後の展望が開けたものとなっている。一方で、この面の原子レベルでの平坦性は面指数の低い側面では実現するが、任意の角度では難しいことも明らかになった。これを用いた測定の結果、超伝導の対称性の変化の糸口を捉えつつある。今後さらに、結晶軸が直交しない晶系を持つ(BETS)2Xや(BDA-TTP)2Xの系でも、この手法が可能であるかを明らかにすると同時に、実際の測定に応用する予定である。これらから、おおむね順調であると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
(BEDT-TTF)2Xの系で得た、FIB加工の有用性をさらに発展させ、結晶軸が直交しない晶系を持つ(BETS)2Xや(BDA-TTP)2Xの系でも、この手法を可能にする基礎技術を開発する。このため、FIB加工のジグの開発も含めて推進する。低温における角度分解トンネル分光測定に関しては、(BEDT-TTF)2Xの系における異方的d-波の超伝導の対称性がd(x2-y2)からd(xy)に変化する可能性を示唆する成果を、さらに詳細に明らかにするため、データの蓄積を行い、この系の超伝導発現機構が磁気揺らぎであるかどうかを検証する。このため、FIB加工の方法をさらに改良すると同時に、測定も推進する。また異なる発現機構が期待される(BETS)2Xの系での測定も開始し、詳細な角度依存を明らかにするとともに、電荷揺らぎに起因するメカニズムの正否を明らかにする。
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