研究課題/領域番号 |
25610088
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松田 康弘 東京大学, 物性研究所, 准教授 (10292757)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 強磁場磁化 / 高周波測定 / スピン系 |
研究概要 |
本研究の目的は、破壊型超強磁場下での実験に適用可能な高周波AC磁化測定手法を開発し、様々な量子スピン系における400テスラ領域での磁化曲線を得ることである。初年度は、装置開発を行い、実際に破壊型磁場において120テスラまでの実験を行う計画であり、それに沿って装置作製、及び予備実験を行った。 高周波AC磁化測定装置開発における重要な要素技術は、励起用及び検出用コイルの設計と製作である。これまでのDC磁化測定手法での実績などから、直径がそれぞれ1.4 mm、1.0 mm、で巻き数がともに20のコイルを、励起用、検出用に設計した。また、速い外部磁場の時間依存性に起因する誘導起電力を抑制するため、どちらのコイルも補償用に逆極性の同型コイルを直列接続する。局所的にはコイルの20巻き部分には1 kV以上の電圧が誘導されるため、電気的相互作用によるノイズやコイルの破損なども危惧されたが、十分な絶縁性をとるような設計にすることで、100テスラまでの実験に使用可能であることを予備実験から確かめる事ができた。 作製したコイルは低温実験用のプローブに組み込み、100 MHzの高周波(rf)によって応答を調べた。AC磁化測定では信号強度が励起コイルによるrf磁場強度に依存するので、十分な信号強度が得られるかが1つのポイントである。本年度は、信号強度の大きいニッケルの磁化を測定することで、現実に得られる信号が測定可能な水準にあるかどうかの確認から始めた。その結果、破壊型磁場発生法の1つである一巻きコイル法を用いた6テスラまでの低磁場での予備測定では、測定可能な信号強度が得られることが確認できた。その結果を受けて、マンガン酸化物Bi0.5Ca0.5MnO3の100テスラでの磁化曲線の測定を行ったが、十分な信号強度は得られなかった。励起磁場および信号強度の増強が必要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
100テスラを超える破壊型パルス磁場において、AC磁化測定用のコイルセットアップと実際の測定への適用はこれまでに例が無く、コイル間の電気的干渉や磁気応力による測定への悪影響が想定されたため、装置開発はチャレンジングである。しかしながら、今年度の成果で述べたように、作製した測定プローブを実際に100テスラ以上の磁場中で使用し、測定系に損傷を与えることなく予備実験を行えたことから、その第1関門は今年度クリアできたと考えられる。また、十分な信号強度を得るための工夫についても方針がすでにたっており、次年度に当初計画に沿った進展が期待できる。以上のことから、本研究は現段階で概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究に必要となるAC磁化測定技術のコイル開発については概ね終了し、予備実験を行う事ができた。その中で判明した課題は、(1)励起コイルによるrf磁場の増強、(2)検出信号の増幅、の2点である。(1)については、RFアンプにより、励起磁場を2桁強くすることを計画する。励起コイルの熱破壊が危惧されるが、励起時間は10マイクロ秒程度に制限すれば良いことを既に確認している。(2)では、高周波信号を位相検波した後段に10 MHz程度の比較的遅いローパスフィルターを数段入れ、その後の信号を増幅することで、磁場発生時のスパイク的なノイズまで増幅することを回避できると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では第1段階として装置及び測定技術の開発を行い、それを用いて実際の実験を進めている。経費は主に装置開発の材料費や実験で必要となる消耗品、成果発表や研究打ち合わせのための旅費に使用されるため、2年間の研究期間を通して定期的に必要となる。初年度は、装置開発のために主に経費を使用し、年度計画の範囲で概ね予定通り予算を執行した。 2年目の本年度は、引き続き測定技術の開発を進め、経費はそのための材料費や測定器の購入にあてる計画である。また、実験は破壊型の磁場発生により行い、その際に生じる消耗品の購入も行う。さらに、研究成果発表や研究打ち合わせなどの旅費として経費を使用する計画である。
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