研究課題/領域番号 |
25610091
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
寺崎 一郎 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30227508)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 超電導材料 |
研究概要 |
本研究の目的は、遷移金属と酸素が作る八面体ユニットが面共有した構造を持つ複雑酸化物を設計・合成し、部分置換を行うことにより系にキャリアを導入し、超伝導を探索するものである。そのため、様々なルテニウムやイリジウム酸化物を合成し、その物性調べた。まず初年度である平成25年度は、BaIrO3およびBa4Ru3O10の2種類の化合物に注目した。これらの酸化物は八面体が面共有して三量体を構成していること、100~200 K程度の電子相転移を生じ、電荷励起にギャップを開くことが共通している。この電子相転移の起源を明らかにするとともに、キャリアドープを行うことによって超伝導を探索した。以下、主な成果を示す。 (1) Ba4Ru3O10については、精密X線回折に基づいて電子状態を議論した。とくに局在電子描像に基づき、ルテニウムの平均価数が三量体形成とともにどのように変化するかを知らべ、この系の相転移が一種の軌道秩序と見なせることを明らかにした。不純物置換効果としてはIrの置換による電子状態の変化を熱力学量の測定から議論し、Ir置換が系に電子をドープするように振る舞うことがわかった。 (2) BaIrO3においても様々な置換を効果を調べ、Ru置換がこの系の電子状態を劇的に改変し、わずか10%の置換で完全に相転移が消滅することを見出した。特に、この系ではc軸長が温度の低下に伴って増大する(負の膨張係数)が、この振る舞いが相転移の消失とととに抑制されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸素八面体が面共有した三量体構造を持つ物質の合成に成功し、なおかつそのキャリアドープに成功した。残念ながら超伝導を見出すことはできなかったが、BaIrO3では金属絶縁体転移を引き起こすことでき、Ba4Ru3O10では、ギャップを保っった電子をドープすることができた。これらの成果は、三量体内で混成したa1g軌道による非結合軌道にキャリアを注入できる可能性を示唆している。すくなくとも超伝導を引き起こす前提条件をクリアできた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はより低温での電気伝導を調べるとともに、非結合軌道内で電子対が形成されている可能性を熱力学量の計測を中心に調べたい。また26年度は二量体物質へのキャリア注入を試みる。また、超伝導が我々の実験到達温度以下で生じる可能性を調べるために、最低温度での磁気抵抗を精密に測定し、超伝導ゆらぎ成分の上限値を見積もる。三量体系の物質においても、電場効果や光照射など、化学置換とは異なる方法でのキャリア注入や電子状態改変の可能性を探る。
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