研究課題/領域番号 |
25610092
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 正行 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90176363)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 核磁気共鳴 / 電子軌道 / 強相関電子系 / 遷移金属酸化物 / 重い電子系 / トランスファー超微細相互作用 / 電子占有率 / 異方的ナイトシフト |
研究概要 |
強相関3d遷移金属酸化物の分野では、軌道依存モット転移、鉄系超伝導体などの多軌道系の物理が注目されている。多軌道を占有する電子の効果を分離して測定することは、物性発現機構を明らかにするうえで重要であり、そのような測定が望まれている。本研究では、核磁気共鳴法を用いて、5個の3d軌道が局所帯磁率、内部磁場、電場勾配へどのように寄与するのかを分離する手法(軌道分解核磁気共鳴法)を開発すること、および、その手法を用いて軌道状態を観測することを目指した。本年度は、先ず、原子核と電子の間に働く超微細相互作用を介して、3d軌道の電子占有率が局所帯磁率、内部磁場、電場勾配とどのように関係するのかを調べた。さらに、この結果をもとに、ホーランダイト型クロム酸化物K2Cr8O16の強磁性状態における内部磁場の解析を行い、4個のクロムサイトの3d軌道の電子占有数を評価した。その結果、4個のクロムサイトにおける内部磁場の差は、各クロムサイトの軌道の電子占有数の差に起因するためと考えられ、クロムの3d軌道と酸素の2p軌道の強い混成によるトランスファー超微細相互作用が重要であることを明らかにした。また、VO2とV2O3の金属絶縁体転移前後における軌道分解核磁気共鳴の実験結果の解析を進め、各軌道の電子占有数の変化を評価した。一方、重い電子系的振る舞いを示すLiV2O4の軌道状態を調べるために、単結晶試料を用いたV核の軌道分解核磁気共鳴測定を行った。常圧下、高圧下のナイトシフトの測定を行い、a1g軌道とeg'軌道の電子占有率を評価した。その結果、a1g軌道が局在的、eg'軌道が遍歴的であり、コリンハ則が成り立つ約1GPa程度の圧力下では、常圧と比べて電子占有率は大きく変化しないことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クロム酸化物の内部磁場の解析が進展し、各電子軌道の占有率を評価することができた。また、バナジウム酸化物に対しても、おおむね当初の研究計画に沿って順調に研究が進み、軌道分解核磁気共鳴法の有効性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、LiV2O4の単結晶試料を用いた高圧下核磁気共鳴実験をさらに進め、高圧下軌道分解核磁気共鳴法の有効性を示す。また、軌道分解核磁気共鳴法を用いることが有効と考えられる他の物質についても実験を行い、この手法の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、研究の過程で、物品費をさほど必要としない軌道分解核磁気共鳴法の理論的な研究が有効であることが分かり、また、来年度に予定している本格的な実験で物品費などが多めに必要なため、次年度使用額として残した。 翌年度分として請求した助成金と合わせて、高圧セル、低温寒剤など軌道分解核磁気共鳴実験で使用する物品費と研究成果発表のための旅費等して使用する計画である。
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