研究課題
挑戦的萌芽研究
希土類元素の両端付近に位置するCeやYb、アクチナイド元素のUなどを含む結晶では、重い電子の形成、エキゾチックな磁気秩序や異方的超伝導など多様な秩序状態、価数揺動に伴う興味ある現象・強相関電子物性が観測されている。特に近年、Ybを含む強相関物質の結晶で非従来型の量子臨界現象とそれに関連した磁性・超伝導について精力的に研究が進められてきた。圧力・磁場・元素置換などをパラメタ―とした物性制御が精力的に行われる中、我々はこれまで大前提として考えられていた周期性に着目し、強相関電子系における並進対称性の役割の研究を始めた。希土類元素Ybが中間価数状態にあり、Tsai型クラスター構造をもつ新物質Au-Al-Yb準結晶[1]において初めて準結晶における量子臨界現象を発見した[2]。D. Shechtman(2011年 Nobel化学賞)らによって1984年に発見された準結晶は、「結晶では許されない回折対称性」と「準周期性」が特徴である。準結晶の構造は長距離にわたる規則性(準周期性)の存在を示しているが、等間隔には並んでおらず、この構造は周期的ではない。マクロ・ミクロの物性測定から、常圧・ゼロ磁場でYbの4f電子が関係した非従来型の量子臨界現象が発現しており、さらに結晶系とは異なる点として、準結晶の量子臨界現象は準周期性・回転対称性を変えないような静水圧に対して「硬さ」を示すことが明らかとなった。今回、Au-Al-Yb準結晶・近似結晶について静水圧下の磁化率測定を極低温まで行い、同じTsai型クラスターが準周期的に配置した準結晶と周期的に配置した近似結晶を比較することにより、Au-Al-Yb準結晶が静水圧に対し「硬い」量子臨界物質であることと対照的に、Au-Al-Yb近似結晶は圧力に「敏感な」重い電子系の近似結晶であることが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
(1)純良な単相のAu-Al-Yb準結晶・近似結晶の育成Au-Al-Yb準結晶について現有の設備(マッフル炉、真空封入装置、アーク炉、プラズマ炉)を用いて、最適育成条件を調べ、純良な単相の準結晶・近似結晶育成を行うことに成功した。(2)熱力学量からAu-Al-Yb準結晶の量子臨界点の性質の研究Au-Al-Yb準結晶と近似結晶について、磁化、交流磁化率、比熱を極低温まで精密データを条件の精密チューニングを行いながら、臨界指数・スケーリングを議論できるようになるまで集めて解析する。また、量子臨界物質のしくみ(量子臨界点に位置する理由)の探求を目的として、Keyとなる極低温の磁化率の静水圧依存性をAu-Al-Yb準結晶と近似結晶について、極低温まで精密データを条件の精密チューニングを行いながら集め「Au-Al-Yb準結晶の量子臨界現象」特有の性質を明らかにすることに成功した。以上のことから研究計画の進捗状況は良好であると判断した。
(1)電気・熱伝導特性からAu-Al-Yb準結晶の量子臨界点の性質の研究準結晶ではブロッホ状態が成り立たないため伝導測定に結晶との違いがより現れるのではないかと予想されている。そこでf電子系におけるの非従来型量子臨界現象の起源の探求を目的として、Au-Al-Yb準結晶と近似結晶についてより純良な試料を用いた電気抵抗測定を行うことにより、準周期性の本質的な部分をあぶりだそうと考えている。いままでは電気抵抗のみであったが、熱電能の測定を比熱と組み合わせて行うことによりf電子が遍歴性を獲得して、重い電子状態を形成しているかどうかについても知見が得られる。また価数揺らぎ(電子移動の揺らぎ)についての情報も得られると考えられる。また圧力下への拡張も我々は可能であるため、量子臨界物質のしくみ(量子臨界点に位置する理由)の探求を目的とした静水圧下の実験を計画している。(2)対称性を破らない静水圧と対称性を破る一軸圧による比較研究次に、対称性を破らない・破る外部パラメター(静水圧・一軸圧・磁場)をチューニングすることにより、量子臨界点から恣意的に遠ざけることを試みる。準結晶を用いた実験だけでは、その本質を抽出するのは困難である。幸いなことに、Au-Al-Yb系準結晶には近似結晶が存在し、既に作成されている。この近似結晶に対しても、準結晶と同じ測定を行う。得られた結果を比較検討することにより、準結晶の特徴をあぶりだしたい。単(準)結晶の育成が可能であった場合は、ベクトル磁場制御装置を用いた磁場方向依存性にもトライすることを考えている。(3)研究のまとめこれまでに得られた研究結果を取りまとめる。
次年度に外国での実験を行うことになったので、その旅費を出すために次年度に予算を残した。外国での実験を行うための旅費に使用する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件)
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